月明かりを嫌う
□相似条件
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「えーと……じゃあ、これで……」
精一杯の営業スマイルを振り撒いて、滝夜叉丸くんがあっと声を上げるのを背中に聞きながら部屋を出る。
「待ってください」
腕を掴まれて振り返ると、存外近くに幼いながら綺麗に整った顔があってのけ反った。
その後ろで、突然支えを失った滝夜叉丸くんがこけている。
「送ります」
そう言った喜八郎くんの相変わらず無表情な顔を見て、ふいに三郎くんを思い出す。
昨日オリエンテーリングに向かう前にくの一教室に山田先生と来た時の顔、そう言えばあれは喜八郎くんのだった。
ともあれ、それで教室の場所と、そして食事はまだかと聞いたのか。
食事を終えた後くの一教室のある敷地まで送ってくれるつもりなのだろうか。天然なのか親切なのか。
しかしつまりそれだと長時間この子と一緒にいるという事だ……ひいぃぃ。
「待て喜八郎っ! 私も行く!」
滝夜叉丸くんが助け船を出してくれて、三人で食堂へ向かう事になった……
心配だった滝夜叉丸くんは、足を引きずるようにしながらでも一人で歩いている。無理して隠さなくなった分はいいけど、大丈夫なんだろうか……
でも本人もさっきより辛そうじゃないし喜八郎くんも全く気にしてないようだし、大丈夫なのかな。
食堂への道すがら廊下を曲がる所で、別の方向から来た三郎くんと、もう一人の忍たまと一緒になった。
「あっ、三郎くん!」
ほっとして声をかけるとため息をつかれる。
「出会い頭に見破らないでください……」
「わあ……話に聞いた通り、ゆうさんって凄いね三郎」
落胆しながらどこか嬉しそうな三郎くんの隣で、全く同じ顔をした二年生が目を丸くしている。
「あ、あの、二年の不破雷蔵です」
優しげな笑顔で、雷蔵くんが挨拶してくれる。
答える前に邪魔が入った。
「何してるんですかー? 早く行きましょう」
「こ、こら! 喜八郎お前は〜!」
滝夜叉丸くんは焦るが喜八郎くんは相変わらず。
「僕たちもご一緒させてもらおう、三郎」
「ああ、ちょうどゆうさんを捜していた所だし」
みんなで食堂へ向けて歩きだす。
くの一教室の山本シナ先生に、私への化粧の手ほどきを頼まれたという三郎くんは、早速明日からお願いしますと嬉しそうだ。
それは私も嬉しいが、いつ明石村へ帰るか分からないしどうやら明石村で過ごすことが多くなりそうだと告げる。