月明かりを嫌う
□相似条件
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焦りや不安といったものが込み上げる。
これじゃまるで、私ってばこの優しい世界に、自分の意思で逃げ出して来たみたいだ。
逃げるなんてダメだ。
責任を忘れてはならない。
私は帰らなきゃいけない。
一つ小さな深呼吸をして、焼き魚をつまんだ。
「ゆう、私の里芋食べるか?」
すずちゃんに追いやられて私の正面に座り直していた小平太くんが、唐突に小鉢を差し出してきた。
目が合うと太陽みたいに笑う小平太くん。
「長次から好きだって聞いた。一昨日は私が食べてしまったからな」
「あっ、うん、ありが」
「小平太ぁ! あんたそれ既にちょっと箸つけてるでしょ?」
はなちゃんが噛みつく。
「ああ、一個だけ」
小平太くんがキョトンとすると、すずちゃんがムッとする。
「食べかけを人に押し付けるのってマナー違反じゃないの?」
「ええっ? そうかぁ?」
ゆうが里芋好きだっていう話を思い出したの、一個食べてしまった後だったからなーと小平太くんは首をかしげる。
「まー細かい事は気にするな!」
「気にしなさいよあんたは特に!」
すずちゃんとはなちゃんがハモった。
「ゆうちゃん、小平太のなんかを貰いたいくらい、そーんなに里芋が食べたいなら」
え、そうでもない、と言いかける私を手で制し、立ち上がったはなちゃんは端の方にいる仙蔵くんに声をかけた。
「仙蔵さーん、その里芋分けてくれませんかぁ?」
その声にこの食卓に座った全員がこちらに注目する。
小助さんの正面に座る仙蔵くんは目を丸くした。
「え? いや、もう箸をつけてしまったが」
「全然大丈夫でーす!」
すずちゃんとはなちゃんが再び声を合わせる。
それなら、と立ち上がろうとする仙蔵くんに、小平太くんが待ったをかけた。
「待て仙蔵! お前の里芋はいらん!
何か不愉快だぞ。釈然としない!」
小平太くんが怒った。
くの一二人は怯まない。