月明かりを嫌う
□ターミナルを出たらそこは室町でした。
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私、七倉ゆう、25歳は、この度死んでしまったのだと思われます。
いや、本当にそうかな?
死んだにしてはおかしいな。
死んで幽霊になっても、体の感覚って、いつまでもあるものなのかしら。
血って流れるのかしら。
いやむしろ体を持って幽霊になれるのかしら。
「そんな訳ないじゃん……」
情けないくらい、震えた声が飛び出した。
この、鬱蒼とした森。
いや、山か?
やたらと斜面があってさっきから何度も、足を取られては滑り落ちて……を繰り返している。
だとしたら山なのか。
足首に鈍痛が走る。
どちらにしろ、とにかく暗い。
冷たい。不快だ。
そして、絶対人生で今が一番と言えるほどに怖い。
私はもう、かれこれ二時間くらいはこうして歩いている。
だというのに景色は一向に変わらない。
もしこれが夢なら、どうか一刻も早く覚めてくれ。
だけど、視界も感覚もいたって鮮明で、夢を見ているとは思えない生々しさがある。
「お願い、ほんともう、起こして」
ほとんど無意識に心の叫びが出てしまった。
だけどそれに答えたのは、何かの気配と絶対人間の物じゃないと思われる不気味な物音。
ああ、やっぱりこれは夢じゃない。
痛む全身を急かしてさっさと逃げる。
端から見たら冷静な様子に見えるだろう私は、この日何度めかの強いパニックを起こしていた。
今私が置かれた状況っていうのが、何度思い返してみても、どう理屈をつけてみても、どうしてもこうしても……
『現実だとしたら』有り得ないのだ。
そんな訳でキャパオーバーの脳みそは、やっぱり私は死んだのだと、もう何十回と導きだした答えにたどり着く。
「ああ……でもやっぱり死んでないよ」
誰に言うでもないが、私はひときわ震える声で、そう断言した。