月明かりを嫌う
□本当にトリップしたようだ
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お婆さんの非情な宣告から、だいぶ時間が経過した。
外が茜色に染まって来たのが縁側から見えて、憔悴しきった私はとりあえず時間を聞いた。
「今は七つだね」
と、返答がくる。
お婆さん、とワナワナ声を震わせながら呼びかけると、千代でいいと返される。
千代さんは、先程からこんな調子だ。
ニコニコしながら甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは本っ当に有り難いのだが……
どうもおかしい。何かがおかしい。
やっぱり夢か死んだに違いないか、私の頭がオカシくなったんだ。
大体、七つて何なの。何が七つか。
あれからというもの……
映画村みたいな所ですよねと問えば
「えいが村? ここは明石村だよ」と返され。
お金も持っていないし時間もないしプランはもういいですからと言えば
「プラン? よく分からないけど、私と小助が好きでした事だから、銭で恩を返せなんて言わないよ。それに何度も言ってるように、可哀想だがこの村からは出られないよ」と返され。
ここは一体何県なんですかと問えば
「なにけん? もしかしてどこの国か聞いてるのかい?
ここは摂津だけど……あんた、頭は本当に大丈夫だろうね?」と返され……。
時間を聞いたら七つと返ってきた後、ボウ然としている私に、千代さんは気の毒そうな視線を向けてくる。
「ゆうさん、あんた……まさかとは思うけど、潜入する地を間違えたんじゃ?
えいが村とやらが目的の地だったんじゃないかね?
どこの国だい、そこは?」
まあでも、こうなってはどの道出られないけど、可哀想な事になったねぇなんて、千代さんは眉を下げて呟く。
「あ、あの……今は、今は何年ですか……」
私はありったけの勇気を振り絞って、そう聞いた。