月明かりを嫌う
□くの一になっちゃった
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部屋の中に招かれてから、10分程が経過した。
先程とは別の事務の方がお茶を出してくれ、緊張した私はそれをずっと口につけ続けるという社会人としてあるまじき行為に走っている。
熱くなければ今頃一気飲みしてそうだ。
口元に持った湯呑みを遠ざけず、ちびちびお茶を飲みながら、チラと学園長を見た。
ここにも例の変な犬の姿はない。
寝てるのかな。
私が通された時、学園長は手に何かの手紙を持っていた。
顔はこちらを向いていたがふさふさ眉毛に隠れて目が見えない。
学園長を見た私は、唐突に忍たまのアニメを思い出した。
私がアニメでハッキリ見たと記憶のある、その人物の一人に、今初めて出会った事に気が付く。
それをわざわざ思い出すくらいに、学園長の姿はアニメと似ていた。
私の目に写るのは現実だけど、多分アニメで表すならああなるんだなとすんなり納得出来るほどだ。
そんな学園長は私を「よく来た。まあそこに座りなさい」と招き入れてくれた後、こうして手紙に目を落としたまま難しい顔(目は見えないけど、多分そんな顔)で、先程からずっと考え込んでいる。
それから5分くらい経過した。
いや、いくら何でも長くないか。
さすがに空になった湯呑みを持ち続ける訳にはいかず、そっと茶托に戻す。
学園長は無言で、ピクリとも動かない。
放置? マジで?
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
上がり症が顔を出し始め、ソワソワがひどくなってきた頃、学園長が小さく声を上げる。
「……ぐぅ」
ぐぅ? ……ぐぅ!?
えぇ〜……
「……あの、学園長先生? 先生!」
「……ハッ! いやわしは寝とらんぞ!」
まさかの寝落ちだった。