月明かりを嫌う

□相似条件
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重傷者の中で下級生組は退室していいと言う新野先生からの頼み事で、私は滝夜叉丸くんを部屋に送る付き添い役になった。


「あの、こっちですよ」

滝夜叉丸くんがおずおずと指す方向に振り返ると、医務室の中から「どこ行く伊作!」という留三郎くんの声に続いて何か引っ張られたんだろう伊作くんが「ぐえっ」とうめく声が聞こえた。

伊作くんがこれ以上重症化しないうちにさっさと退散しよう。


「あ、ごめんね、滝夜叉丸くん。
えと……辛かったら頼ってね。
道は分かんないんだけど……」

手を引こうかとしたが物凄い勢いでしかし丁重に断られたのでやめておいた。


滝夜叉丸くんに案内されながら忍たま長屋の一年生の方へと歩いて行く。
これほんと、私何なんだろう。
付き添いと言えるのだろうか。


「ふっ……このような大袈裟な包帯ぐるぐる巻きの状態ですが大した怪我ではないんですよ。何せ私は一年生で一番優秀であるにもかかわらず常日頃からあらゆる事態を想定してそれに備える為の鍛練を重ねておりますので並の忍たまではとっくに気絶しているような怪我ですらこの滝夜叉丸ならばこうして余裕で歩く事も出来るのです。まあ、この忍術学園期待の星の私を校医の新野先生がいたく心配するのは無理もないというものですが、」


仕方ないなあ、滝夜叉丸くんは。
平気な振りでまくし立てているけど痩せ我慢なのはバレバレだ。
私の敏感体質でなくても誰が見ても分かる。
痛いだろうに、高笑いしてみせている。

でもそこにあるのはプライドだけではなくて、私への気遣いが大いに含まれる。

三木ヱ門くんはただの友達いないナルシストと評していたけど、そんな事はない。
先輩や年上、目上にはきちんと敬意を持って接するし、話は長いが嘘でもないし何より礼儀正しい。

滝夜叉丸くんと三木ヱ門くんは似た者同士なのかも知れないな。
ただ、三木ヱ門くんの方が少し柔軟性があるかも。

とにかく、滝夜叉丸くんみたいな子は私は嫌いじゃない、どころか好ましい方だ。


無理をする滝夜叉丸くんの手を、私はそっと取った。
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