月明かりを嫌う
□ターミナルを出たらそこは室町でした。
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もう一度、状況を整理してみる。
まず、今の私の状態。
いやもう、容体と言おう。
七分袖でグレーのカットソー。
紺色のスカート。
ストッキング。
ヒール4cmの黒のパンプス。
薄手のスプリングコートは、ベージュ寄りのグレージュだ。
どれもこれも無地で、良く言えばシンプル、ずばり言えば地味。
カットソーに小さくついている飾りボタンは高級感があってお洒落に見えるけど、残念ながら後ろの襟首にあるのでコートを脱いでも、肩下まで伸ばした黒髪に隠れてほとんど見えない。
あと、ポケットにウォークマンと、反対側のポケットにスリムタイプのペットボトル(空)が入ってる。
そもそも荷物を持つのが嫌いな私は、その他の物は全部キャリーバッグに入れてしまっていた。
そう、携帯と財布も。身分証明書系も全部。
そのキャリーバッグは現在行方不明だ。
これに真っ先に気付いた二時間前、私は一度死んだ。
いや勿論、ショックだったという意味だけど。
そして今、全身ドロドロのボロボロ。
昼食も取り損ねたままだったし、汗をかきまくったからなのか、服のサイズがやけにゆるゆるに感じる。
薄化粧なんかとっくに流れてしまってるだろう。
中でも一番酷いのはストッキング、ついでパンプスだ。
ストッキングは伝染だらけで、こうなったらもう履いてんのかすら分かんない。
傷も沢山あって我ながら血で痛々しい。
痛覚はもはや麻痺してきているようだ。
せっかくの本革のパンプスも傷だらけ。
高かったのに。
……高かったんだぞ。こんにゃろー。
涙混じりの盛大な溜め息をついて、私は再三足を止め、辺りを見渡した。
やっぱり、何度見たって同じだ。
知らない場所。有り得ない場所。
マジで何なんだこれ。
どこだよ、ここ。
こうなった経緯を、再び思い返してみる。