月明かりを嫌う
□本当にトリップしたようだ
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「え、今が何年か?」
いよいよ深刻な表情を浮かべながら、千代さんはそれでも丁寧に教えてくれた。
千代さんから聞いた年代。
それが指すものに、歴史が得意でない私でも何とかたどり着く事が出来た。
それは江戸時代よりもっと前。
多分戦国時代より前……
そう、室町時代辺り、ではないだろうか。
私の隣に座って、相当頭を強く打ったのかも知れないと心配そうにしている千代さんに、私はしばらく答える事が出来なかった。
「そうだ、洗剤が」
しばらくまたボウ然とした後、私はハッとした。
室町時代なのだとしたら、あそこに見えてる粉洗剤の箱は一体何なんだ。
あんな物その時代には無かったはずだ。
私はもう無我夢中で、分厚く大きめの畳が置かれた床から這い出し、板の間を転びそうになりながら渡って裸足で土間へ降りた。
どうしたんだいという千代さんを無視し、粉洗剤の箱を掴む。
「洗剤がどうかしたのかい?」
千代さんの声には哀れみが滲んでいる。
私は振り返って洗剤の箱を千代さんの方へ突き出した。
「おかしいです、室町だなんて。
だったらこれは何なんですか!」
「え? 何だも何も、だから洗剤だろ?」
「こんな物ある訳ないです!
もういいから嘘はつかないでください!」
「洗剤くらいどこにでもあるのに、おかしな子だね。
簡単な事も忘れてしまうくらい頭を打ったのかねぇ……」
「嘘ですよね!?」
「何がだい? 私は嘘なんて吐いちゃいないよ」
しばらく、嘘だ、嘘じゃない、の押し問答を繰り返していたけど、私の腹が再び盛大に鳴ると、私は力なく土間にへたりこんだ。
千代さんは、冷静に考えれば随分失礼な態度の私に、それでも親切だった。
「何が何だかよく分からないが、昼があれっぽちじゃあ、足りなかったようだね」