月明かりを嫌う
□学園長先生の突然の思い付き
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「それじゃあゆうさん、お休みなさい」
ニコニコの山本先生を見送って、白の着物姿……寝巻き姿の私は、しばらくぼうっと布団の上に座っていた。
ヤバイ、眠れそうにない。
だって多分、元の世界じゃまだしっかり活動時間だ。
疲労もある程度取れてしまったし。
明石村に居た時は精神的な疲れが大きくて倒れるように寝ていたけれど……
よくよく考えてみたら、私がここで過ごしている時間って、元の世界じゃどうなってるんだろうか。
体の感覚は生々しいくらいあるので、体ごと元の世界から消えているはずだけど。
若返りの謎も、その辺に関係あるのかな。
考えても一向に纏まらず、今頃、元の世界では多大な心配やら迷惑をかけているんだろうと思った所で――私は強制的に思考を閉じた。
心配と迷惑について、元の世界で深く関わってくる人々の事をチラッとでも思い出せば、目が回るし吐きそうになる。
帰るべき場所に対して私が負っている責任に、心臓が潰れてしまいそうなのだ。
でも今は私だっていっぱいいっぱいだから……
今はまだ、帰る方法を探す以外の事を考えなくたって、きっとバチは当たらない。
私はおもむろに風呂敷包みを解いた。
現れた私物の一番上に、ウォークマンが乗っている。
起動させると電池はまだ満タンだ。
私はこう見えてかなり音楽が好きだ。
詳しい訳じゃないけど割と様々なジャンルの曲を聴く。
歌うのも好きだ。
とびきり上手、ではないが下手ではない。
本当はモヤモヤをふっ飛ばす為にも大声で歌いたいんだが、そうするとご近所迷惑どころの騒ぎじゃなくなるので、ウォークマンに助けてもらう事にする。