表の顔

□冴 (真)
1ページ/1ページ


「兄弟の何処がえぇんや」

そりゃぁまた唐突な言葉で。
居酒屋でふたり肩を並べてお酒を飲んでいた

「どうしたの大河さん」

別に彼の方は見ないけれど 目だけで彼を見る
彼も 私を見て話そうとはしない

「質問したんは俺や。兄弟のどこがえぇんや」

「そうね、…うーん、」

吾朗さんに魅力は感じる
だけど 彼のどこがいいか、なんてそんな質問されても
回答に困るだけだ

別に何処が好きかなんて考えたことはないし
彼には彼のいいところもあるし
苦手だなってところもある

だけど どこが と、そう問われるとあれとこれとそれと、
なんて言葉は浮かばない

だから その質問には困ってしまう

「何処が好きかなんてないけど、魅力は感じるわ」

はぁと、間を置いて彼が溜息をこぼす

「不満?」

「せや」

肩を竦めまたお酒を煽った
私がジョッキで飲んだって 誰も文句を言わない
おっさんみたいに顔を顰めたって

誰も悪い顔なんてしない

「大河さんの魅力に惚れてるのも事実」

ん、と今度は顔を覗く
ちらりとこちらを見て また手元のお皿に視線を戻してしまう

そして黙って 手元の焼き鳥を箸でつついている

「…何が不満?」

「なんでもない」

「うそ」

「喧しい」

「吾朗さんとも付き合ってるのがそんなにいや?」

「当たり前やろが」

今まで以上に眉間に皺を刻み ギロりと睨んでくる

「吾朗さんとも、大河さんとも、セフレ」

最近やっと覚えてくれたこの言葉に 今は意味がわかるからぎゅっと手を握り締めていた

「私は誰のものでもない」

「せやから嫌なんや」

「…なら大河さんとはもう会えない」

「…」

吾朗さんだって 私をセフレだと言った
現に彼は都道府県で女を作ってる

私は東京の女
ただそれだけの話

でも大河さんは 嫌だという
私を独り占めしたいと

本気の付き合いが 大人の付き合いがしたいんだと

だけど 縛られるのが嫌な私は
大河さんの言葉を無視する

聞こえないふり

だけど はっきりそれでも嫌という日は
さっきみたいに「もう会えない」という


彼はいつもこの言葉に黙って
葛藤して 渋々頷いている

そんな付き合いがしたいなら 他の女にすればいい
だけど 彼は私じゃないとダメだという

それは 分からない
私のペースが 乱される


「大河さん、ホテルはどうする?」

「…今日はお」

そのとき、私の鞄でケータイが揺れた

「…ごめんなさい、」

「…、かまへん」

大河さんに謝罪を告げケータイを漁る
着信音で誰かなんて分かっていたけれど、…ディスプレイには"テクノカット"
そう書かれていた

「もしもし」

溜息混じりに着信に出ると 耳横で声が聞こえる

『会えるか?』

「無理」

『なんや冷たいのぅ』

「もう切ります」

『なして会えんのや』

「どうして貴方がそんなこと気にするの。ただのセフレでしょ」

テーブルに置いていた左手を 大河さんが優しく包み込んだ

その暖かさに小さく微笑んだ


『随分やな。冴島とおるんやな』

「邪魔しないで。あなたと会う日じゃない」


ピッとケータイを切る
はぁと溜息を零して すぐさま鳴り響く着信音


「…ストーカーで訴えられるわね」

そう言って電源を落とす

「…良かったんか」

「何言ってるの。今日はあなたと会う日よ?…もしかして行って欲しかった?」

なんてかまをかけると ぎゅっと手を握り締められる

「…嘘に決まってるでしょ?可愛い人ね」

ちゅっと頬に口付ける
今にも泣きそうな目尻にも 優しく口付ける

「大将、お勘定」

「まいど!」

「ほら、行きましょう?」

恋人繋ぎのように手を絡め合わせ 引っ張る
貴方が小さく微笑んで見えたのは きっと私の気の所為


お会計も終わり ホテル街に歩こうとすると遮られる

「今日は俺の家来てくれや」

「今日も、の間違えでしょ」

くすっと微笑み お酒の熱を冷ますように街をゆったり 、二人であるきはじめる

ネオン眩しい神室町
いつになっても消えない光は 機械的で寒さすら覚える

だけどこの街で 大河さんや吾朗さんに会えた

不思議なこともあるんだなぁって
小さく微笑んだ

少し冷たい外の空気は 私の頬をするりと撫でた
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ