表の顔

□お鍋
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『今日、兄弟連れてってもえぇか?』

大河さんにそう聞かれたのは 今日の夕方頃

「はい、なにか催しでも…??」

一度もなかったことに頭を傾げる

『出張言うてたやろ?そこでえぇ肉手に入れてな。兄弟に言うたらワシも食べる食べる煩うてな』

くすっと ケータイ越しに聞こえる声に微笑む

「美味しそうですね、お鍋ですか?」

『おう』

「楽しみです」

そこそこ会話を続け またあとで、と切る電話に
少し切なさがあった


久しぶりに大河さんに会えるから 腕の中で甘えようなんて思ってたけど、

落ち込む気分を振り払うように 頭をブンブン振って立ち上がる

「家のことしようかな」

台所に向かい洗い物をはじめる
そう言えば 兄弟さんってどんな方なんだろ

大河さんに似てるのかな?

そんなことを思いながら 家のことをテキパキと済ませ
気付けば8時頃を回っていた

「…お腹空いた」

ポツリとつぶやき 大河さんの登場を今か今かと待っていた

ぽけーっとしているとインターホンが鳴った

はっと嬉嬉とした顔に変わり玄関に向かう
ガチャリとドアノブを回し 会いたかった人を向かい入れる

「大河さん」

ぎゅっと少し背伸びをして首に抱きついた

「りお、兄弟居るねんで」

「!!ごっ、ごめんなさいっ」

大河さんに会いたいあまりに、すっかり
今日の三人で囲む鍋
そのことを忘れてしまっていた

パッと離れ頭を下げる

「えぇてえぇて。熱々のところ見せつけてくれるやんけ〜」

ギョッとした

テクノカットに
隻眼に
素肌の上のパイソン柄ジャケットに
ちらりと覗く入墨に
レザーパンツに
ピカピカと先の尖った靴

おもわず
「寒くないですか?」

ふたりは目を見合わせ ぶはっと吹き出した

「え?」

「っひゃひゃひゃっ!兄弟、この子おもろいなぁ!」

ばんばんと大河さんの背中をバシバシと叩いている

その大河さんも目尻の涙を拭うように笑っている

「え?だって五月でも夜と早朝は寒いですよ?」

「りお、こいつはこれでえぇねん。寒さとか関係あらへんから大丈夫や」

困ってしまう

玄関で話していたことを忘れてて
さっとスリッパを出した

大河さん用と お客様用

大河さんが ありがとうなと微笑みリビングへ向かう

どうぞ、と手で促し 兄弟さんの後についていく


どかりと ソファに座るふたりは少し窮屈そうにも見えた

テーブルを挟んで向かい合うよう座る

「紹介するわ。兄弟の盃を交わした真島や」

「真島吾朗っちゅうんや。宜しゅうな」

あ、盃なら似てなくて当然だよね

…なんだか大河さんとは違う関西弁に ん?と頭を傾げながら

「りおと申します。よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げると

やっぱり変わってて面白いと真島さんに笑われた

「りお、台所借りるわ」

「あ!はい!お鍋出します」

土鍋やコンロの準備をするために付いて行く

シンクの下を開けて二つを取り出す

「大河さん、さっきお酒買ってきました。大河さんのお好きなお酒で大丈夫でしたか?」

「ありがとうな。兄弟もあれ好き言うてたからかまへんで」

頭を優しくなでてくれる
嬉しくて 同時になんだか寂しくて
ちゅっと頬に口付けた

「な、なんや」

「ふふ、気持ちの表現法です」

微笑んで真島さんのいるリビングへと向かう
さっきあらかた片付けたけど 机の上を少し片付け
戸棚に置いてある灰皿をテーブルの上に置いた

「煙草吸われますか?」

「ああ、吸うで。おおきに」

にっと目を細めて微笑む顔に少しドキリとしたのは大河さんには内緒

どうぞ、灰皿を真島さんに近づけ いそいそと準備を始める

テーブルの上に焜炉を置いて お皿を取りに台所に戻る

手際の良さをじーっと見ていたら パッ目が合い

「どうしたんや」

くすっと微笑んでいた

「いつ見てもかっこいいなぁって」

ふふと微笑み 大河さんの後ろをすり抜けお皿を取り出す

「別にかっこよくないで?」

「なら、私だけが知っている大河さんの魅力のひとつですね」

ふふと微笑む
久しぶりに会えての嬉しさからか 私の口は随分と素直でお喋りだ

なんやそれ、と大河さんもつられ笑っていた

「今日のお鍋は何肉ですか?」

ふと気になり尋ねる

「今日のは猪やからぼたん鍋やな」

「ふわっ!美味しそう!」

「驚き方やろ」

「え!え!私ぼたん鍋食べたことないです!」

「そうなんか?」

「なかなか機会がなくて…」

ふふと微笑み お肉を切る手を見つめていた

猪肉は生の時はこんななのか…なんて思いながら
ポケーっとしていた

「鍋に水張って持っていくから、お皿持ってって準備してきや」

「わっ、忘れてたっ」

ささっと後ろをすり抜け通り抜け リビングへ戻る
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