表の顔
□海へ
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女はめんどくさい生き物なんだと
もう既にその目が語っている
だから私は 権力や金に目がない女達と同じ、一括りにされないように
必死にひとりで 強気な女 を演じていたのかもしれない
何かを買ってやると言えば 要らないと言った
だってそうすれば 貴方は周りと違う女として
私を見てくれると期待していた
『つまらへん。まだ馬鹿な女の方がえぇわ』
じゃあ
私が その馬鹿の女になって戯ければ
あなたは私を見てくれる?
見ないでしょ
誰よりも可愛くなりたくて
あなたに釣り合う女になりたくて
背伸びした服や格好は
いっせいに焼却炉へと投げ捨てた
『飽きた』
そう言って捨てられたあの日から
私は我慢という言葉を捨てた
キラキラ輝くネオン街を嫌い
照りつける太陽を憎み
同時に あなたへの気持ちは
憎悪にならなかった
寧ろ愛しくて。
捨てたい
捨ててしまいたい
ばかみたいに一途で
ばかみたいにあなただけを見て
ばかみたいにあなた色に染まってしまった
頭がずっしりと重たい
今日も神室町ではない 別の場所に足を運ばせる
***
ざぁざぁと聞こえる海音は 私の心を癒してくれるようだった
サンダルを脱ぎ捨てワンピースを鷲掴みにし、 股下2,3cmのところまで上げる
誰もいないからショーツが見えたってなんにも思わない
ちゃぷちゃぷと海に入る
海は少しずつ 私の足を飲み込む
膝上まで進んだところで 持っていたワンピースを離した
透けて 色が濃くなって 重さを増した
重りが私の体ごと海に引きずろうとする
空を少し見上げれば 見え隠れする三日月がひとつ
私を嘲笑っているようだ
私の頬が一筋濡れた
口に入るその水滴はしょっぱくて
いつの間に 海に潜ったのか
そんなことを考えながら 小さく笑った
世界に一つだけの硝子の花は 目の前で手折られた
壊れてしまえば 二度と戻らない
「吾朗さん…」
今までありがとう
目を閉じて私は眠った