表の顔

□あの日の強がり
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急な呼び出しがあった
だいたい 理由はわかっていた

BARに足を運び 見慣れた後ろ姿の左に座った

「…なんやいじめか?」

「ほおっておいて」


私の最後のいじわる
彼の左に座って 私を見えないようにする

「ほうか…」

「カカオフィズひとつ」

バーテンがカクテルを作り始める
その動作を見つめていた シェークしてる時の音が好き

そしてグラスに注ぎ大きめの氷が入る
ソーダの好みも知っているこの人は いい塩梅でグラスにソーダを注ぐ

「どうぞ」
「ありがとう」

香りを堪能し 一口口に注ぐ
満たされる

レモンとカカオの喧嘩しない味
甘くて口当たりのいい カカオフィズ

意味は知ってるのかしら?
なんてと思いながら彼を見ると タバコで遊んでいた

はぁと 小さくため息をこぼす

「…それで?今日は?」

予想はついてる

「…わしな、女すきやないねん」

「知ってる」

「今日な、帰ってくるねん」

「へぇ」

耳を塞ぎたい

「せやから りおとも今日で」

「知ってた」

あ?と言う顔に声をかける
その続きを聞きたくなかった

「そんな感じ してたから」

グッとカクテルを飲み干し


「ギムレット」

グラスを左にずらす

「ただ性欲のはけ口が無くて私といるのも知ってた」

「…」

「それが今日で終わるだけの話でしょ。辛気臭い顔しないでよ めんどくさいから」

そんなこと思ってない

「せやな、縛り付けてもうてすまんかった」

そんな事言わないでよ

「こうなることはわかってた」

「エスパーやな」

「馬鹿じゃないの」

目の前にギムレットがやってくる
泣きたくて でも我慢して強い女を演じる
味なんて心の苦さで分からない


「今日な 此処で会う約束してんねや」

「 」

私との 思い出の場所なのに
連れてくるの?

嫌味な人

「せやから それまでに帰ってや」

「貴方が帰れば」

「無理や。向こうケータイ持ってへんし」

「冴島さんの腕の中で鳴くんでしょ」

「、」

「なら掘ってあげれば良かった」

どんな顔して鳴くのか 見ておけばよかった

「この人にツケといて」

鞄を持ち立ち上がり乾いた音が店内に響いた

「じゃあね」

そう言って歩こうとすれば手を掴まれる

ぎちぎちと痛む手首は 彼のものじゃない


「…あぁ、貴方が彼氏ね」

「なんやて?」

「離して。警察呼ぶわよ」

あっさり離れる手は痛かった
じんわりと 再び血が私の中を駆け巡る

「じゃあね彼女さん。彼氏の中で楽しい日を過ごして」

そう言ってBARをあとにする


嫌な女を演じた
あれでいいんだ
あれでよかったんだ

そう思うことにしよう

ぽろぽろこぼれる涙を強引に拭きながら
でも確りとしている足取りは 家へと向かっている

わかっていた こうなることはわかっていたのに
少しずつ 彼に惚れてしまっていた自分がいた

ダメだと言い聞かせてたのに
心は反対だった

ただのはけ口でも 嬉しかった


溢れる涙を無視して 空を見上げた


"今日も月が綺麗ですね"

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