表の顔

□冴(真)
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「大好き」

「知っとる」

2人で先程からこんな会話をずっと続けていた


「大河さんが大好き」

「すまん」

「ずるい」


するっと彼の首に腕を回し抱きつく

優しく抱きしめ返してくれた

「ん〜…」

ふにゃっと笑みすりすりする

「なんや猫やな」

「前世猫かも」

「尻尾生えてへんで」

「見えないだけかも」

離れたくなくて、彼に少し強めに抱きついた

「…愛してる」

「…」

ちゅっと頭のてっぺんに大河さんの柔らかい唇があてがわれた

その温もりに小さく笑み、大河さんの頬にキスをする

「なんや誘っとんのか?」

くすっとあなたが細く笑む

「あなたをもっと深く感じたいの」

とろんとした目で見つめる

だけど そんなのは通用しなくて
あなたはただすまないと謝って頭をなでてくれるだけ

涙がこぼれる


「…もう帰らなくちゃ」

惜しみ体をいやいや離す

「…せやな」


ぐりぐりと頭をあなたの服に擦り付ける

「なにしとるんや?」

眉を下げ微笑むあなたに

「今決めた、私猫だもの。前世から引き継いだの」

「何をや?」

「独占欲の表れ」

彼の困った顔をよそに モッズコートを取りに立ち上がる

「はい。…待ってるよ、奥様が…」

「…そない顔しなや」

私は友人という立場で、彼は同情で私と一緒にいてくれる

ハグとか手を繋いだりはしても、それ以上はしないって。


私は影の女

表をいい顔をして歩けないことくらい知ってる

だからこんな顔しかできない。


「また来るわ」

「…えぇ」

出ていく前に あなたは必ず私の頭を撫でる


静まり返る部屋の中
ピッと電気を消して布団にくるまり涙をこぼす

いつまで続くのか、分からない。
私が勝手に好きになって、その後に彼が結婚しているって知った

でも、気持ちは止められなかった

誰かに吐き出せたらいいのに


彼は 苦笑して頭を撫でてくれるだけ…

苦しい


どうして、好きになってしまったのか


プルルルっと 部屋のどこかで電話がなる

無視をする

切れては鳴って 切れては鳴っての繰り返し

軽く舌打ちをして ベットから出てケータイを取る

デイスプレイに、『真島』の名前


「…もしもし」

『なんや出るの遅いやんけ』

「ブルーなんです、ほっといてください」

『なんや今日も兄弟来とったんかぁ』

あちゃーと電話越しに聞こえてくる


知ってる
真島さんが電話を掛けてくるのは、決まって冴島さんが帰った後

見計らっていたかのように掛かってくる

「わざとらしいですよ」

『まぁえぇやん。これから1杯どや?』

「私はあなたの女じゃありません」

『兄弟の女でもないやろ』

「っ…ひどい人」

『知っとるわ』


ケラケラと笑っている彼にムッとなりながらも
彼と話しているといつの間にか冴島さんを忘れられて 涙が止まっている

どうしてなのか、それは分からない

『来るんやったら来ぃや。ニューセレナの店にワシ居るで』

「知ってるくせに」

なんのこっちゃと、とぼける彼の声を最後に通話を切る


決まってる

彼が電話で誘ってくるのは 私を慰めてくれるため

「今夜も マジックかけられちゃうのかしら」


気付いたら 私は彼の下であんあんと鳴いている

こんな顔 誰にも見せられないのに
真島さんは何も聞かずに 私を笑わせてくれる

いつも いろんな感情がごちゃごちゃして気持ちが悪い

がちゃりと玄関を閉めて ニューセレナへと向かった


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