表の顔

□真
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この言い表せない気持ち
貴方ならなんて言うだろう?

私には表現出来ない


誰かに曝け出すのも無理な話

苦しくて 考えるだけで涙が出て
汚くて吐き気がする

一層の事逃げてしまいたい

叫びたい
海に行けば 誰にも気付かれず 胸の内を吐き出せるかもしれない


「真島さん」

「んぁ?なんや?」


「少しでかけてきます」

「…は?いや、今何時や思ってんねん」

「12時は軽く過ぎてますね」

「分かってるやん。何しに行くねん。てかどこ行くんや」

「海」


はぁ?と盛大にため息をこぼしていた
身支度を整えお財布と鍵だけを取り出し玄関へと向かう


「いやいや、何行こうとしてるんや」

「たまには ストレス発散も大事です」

「ストレス、なぁ…」

吸っていた煙草の煙を私に吹きかける
煙ったくて 手で払う

「行ってきます」

「…あかん、ワシも行く」

「えぇ…ダメです」

「なしてや」

「叫べないじゃないですか」

「なら耳塞いどくわ」


そう言う問題ではないのですが
その言葉を飲み込み こうなれば聞いてくれないと思い玄関先で待った


***


涼しい夜風は 少し寒すぎるくらいだった

陽がある内は 賑わっているであろうこの場所はとても静かだ

サンダルを脱ぎ捨てる
真島さんは砂浜に座ったままタバコを吸って私を見ていた


「海は入らないと損しますよ」

興味無さげに手をシッシッと払うようにしていた

サンダルの上にタオルを置いて 少しずつ海に足を進める


あぁ…後で絶対痒くなるのに…
そんなことを考えながらゆったりゆったり進むと 股下2cm程の短パンが少し濡れるところまで歩いてきてしまっていた

少し下がり 手で海水をすくうと 透明で綺麗で
私の心もこれだけ綺麗になってしまえば もう何も考えなくてすむのに

「…あ、でも汚染水はダメだ」

これほどきれいな水を 汚染したゴミなどを捨ててしまえば汚くなってしまう

だから こんなに綺麗な海を汚してしまってはダメ
なんて考えながら パシャパシャと遊ぶ



ふと考えるのは やはり先刻のことで
逃げるように真島さんの家にお邪魔した

慣れたように 私の顔から読み取って
何を言わずに入れてくれた

私は、
わたしは…


「っ」

「…どこ行くんや、…このどアホ」


後ろから抱きしめられた
ふわりと香る整髪料
心を締め付ける香水

「まじまさん…?」

「死にたいんか?ジブン」

「ぇ?」

下を見ると 胸の上あたりまで体が沈んでいた
私は歩いたのだろうか

そんなことを考えながら 真島さんのことを思い出した


「…引き止めに 来てくれたんですか」

「目の前で死なれちゃ目覚め悪いやろ」

「死なれちゃなんて…私はもともと死人かもしれませんよ」

「あほか…触れんやろが」

「…なら真島さんも死んでるのかもしれません」

「勝手に人殺しなや」

真島さんの暖かさに身を委ねる


月を見上げると 雲の後ろへと隠れた
私から 身を隠すように


「きたない……」

手を空へかざし 隠れる月を握り締めた


そろそろ 檻から逃げ出したい
吾朗さんは 今日も何も聞かず

ただ私のそばにいてくれる

「吾朗さん…服がダメになっちゃう…」

「かまへん…」

少しだけ
あと すこしだけ…

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