表の顔

□花火
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2人で肩を並べて海を並べていた
小学生の頃によく使っていたようなレジャーシートを敷いて
その上に二人で座って

大河さんと一緒に作ったお弁当を食べながら



これでもかってほど密着しているのに
夜空の下だと寒いね なんて話していた

少し大きめの毛布に一緒に包まって 大河さんの肩に頭を預けていた

こんな夜更けに 遠くに
ヨットが見えた

ゆらゆらと ゆっくり動いていた

遠目でそれを見つめながら


「あのヨットはどこに行くのかな…」

こんな時間に どこに行くんだろうって
独り言のように呟いたけど

「俺らの知らんところやな」

私の言葉を拾ってくれた


「そうか…それを言われればそうだね、」

私たちの知らない場所

あの人は知ってても
私たちは知らないところ


私も 行ってみたい

大河さんを見上げると ん? と私を見つめた

「行ってみたいな、…って」

擦り寄ると逞しい上腕二頭筋が私を包んだ
大河さんの香りと毛布からも香る匂いに 思わず頬を緩めた

「大河さん、花火しよ」

「あ?」

後でしようって、2人でコンビニへと花火を買いに行った
大きいのはダメだね、なんて話して
やるのは線香花火だけ

大河さんが車へと向かい花火を持って帰ってくる間に 私はバケツに海の水を少しためる

アロマキャンドルの香りは甘いフルーツの匂い
ベリーかもしれない。部屋の奥に眠っていたのを取り出した

カチッと火を付けると 数分してから香るのは本当にベリーだった

ラベンダーかも知れないと思っていたけど


「なんやえぇ匂いやな」

「なんだと思います?」


スーっと 目を瞑って息を吸い込む

「いちごか?」

「っふふ、ベリーだから当たりかな?」


ぺりぺりと巻き付けていた留め具のシールを剥いで はいっと大河さんに渡す

二人同時にそっと火に近づける
パチパチと火が大きくなり始め柳のようにいくつも火花が起こる


「火種が落ちずに消えたら、願いが叶うらしいですよ」

ふふっと微笑みながら火種を見つめる

「願い事か…」

じゅくっとなって少しずつ火が小さくなってポトリと落ちる

「あちゃ〜…」

「俺のも落ちたわ」

バケツの中に燃え滓になったものを入れる

それから何回かしても二人とも落ちてしまう
奇跡に近い運試しはうまくいかないように出来ているらしい


「最後かぁ…」

「本気でお願いせなあかんのかもな」

ふっと大河さんが微笑む
私も本気でお願いしてみよう

念力を送るようにガン見をしていた

でも

「ぁ…」


ぽとりと落ちてしまう

「なんや、りおの落ちてしもうたんか?」

顔を上げると 大河さんは嬉しそうに笑んでいた

「落ちんかったで」

「えっ!いいなぁ!すごい…!」

それで 気になるのが


「お願いごとは…!?」


期待の眼差しで見つめると 内緒だと言われる

ぶーぶー文句を垂れると 大河さんがアロマキャンドルを吹き消した


頭にはてなが浮かぶ
光になれていた目が 急に暗くなってしまったから 大河さんの顔も見えなくなってしまう

どんな表情をしていたのかさえも


「っ」

「なんや ガチガチに固まっとるやないか」


けたけたと大河さんは笑う
不意にされた口づけは

甘いベリーの 香りがした

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