表の顔

□お鍋
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お皿を三つ並べ その前にお箸を置く

わくわくとお鍋を待って 先程座っている所に座ると

「鍋好きなん?」

「へ?」

間の抜けた声で返事をしてしまう

「くくっ、いやぁ目を輝かせとるから 鍋好きなんかなぁって思うてな」

「お鍋も好きですが、食べることが大好きなんです」

皆で食べることが、と付け足すと
軽く目を細めていた

ん?と首を傾げる

「細いのに大食いなん?」

「痩せの大食いだと、皆にはからかわれますよ」

苦笑すると 見えへんなぁと笑っていた
何度目かの言葉は もう慣れてしまっていて
今ではなんとも思わない

昔はなんだかいやだった


するとお鍋を持った大河さんの登場

焜炉の上に土鍋を置き火をつける

わくわくとその火を見つめる

「あっ。お酒はもう飲まれますか?」

座った大河さんに尋ねると 頼むわと頷いていた


冷蔵庫に向かい 冷やしておいたグラスとお酒を取り出す

どうぞ、と手渡す

キンキンに冷えたそれは 少し痛かった

トクトクといい音が私の耳を覆う

「乾杯」

「おつかれさん」

ごくごくと二人ともいい飲みっぷりで
買ってきて良かったと思いながら また火を見つめる

「りおちゃんは呑まへんの?」

首を傾げる真島さんに

「ストップが掛かってるんです」

苦笑で返すと 首を傾げて大河さんを見つめていた

「とにかくあかんねや」

理由を知っている大河さんはそれしか言わなかった

大方察したのだろう
なるほどと頷きながら 真島さんはもう一口ビールを煽っていた


ぐつぐつといい音が聞こえ 次第に匂いも広がってゆく

大河さんと真島さんは 会話に花を咲かせている
楽しそうだなぁと なんだか微笑ましくなった

自分の飲み物を用意していないことに気づき
コップと飲み物を取りに台所へと戻る

こぽこぽと溜まるお茶を じーっと見つめ
ふと思い出した

嫌なこと

ハッとして 慌ててお茶を止めても溢れ出てこぼれていた

ずずっと少しだけ飲んで あちゃーっと思いながらシンクを拭く
次にコップを拭いて お茶の入った容器とコップを持って ふたりのいる場所へと戻る

「大丈夫か?」

「へ?」

「辛気臭い顔してるで」

二人に指摘され ぺたぺた顔を触る
そんなに変な顔してたかな

座りながら

「大丈夫です」

お鍋が私を待ってます!なんてつけ足すと
ふたりは笑っていた

大河さんが そろそろだと鍋の蓋を開けた

もわぁっと広がる湯気は 私の心を踊らせた

美味しそうにぐつぐついわせる鍋は
いまかいまかと 煮えたぎる

「おさらかしてみ」

お皿を手渡す
お肉や野菜がよそわれるお皿は 少しずつ彩られる

「熱いから気ぃつけや」

手渡されたお皿は先程より熱くなっていて
気をつけて受け取り 慎重にテーブルに置く

お汁に浸っていたお肉や野菜は
汁や脂によってテカテカと綺麗に輝いていた

二人分のお皿を待ち
大河さんがよそいおわると 手を合わせる

「いただきます」

三人で声を合わせて 箸を手に取り食べ進める

ふーふーして食べると 熱くて
はふはふと熱を逃しながら食べる

猪肉は意外と美味しくて なんだかクセになりそうだった

「おいひぃ」

噛んだものを喉奥に通すと 空いていた胃が優しい味に包まれる感覚があった

「ほんま幸せそうやな」

くすっと大河さんが微笑む

「みんなで囲む鍋は最高ですよ」

ふふっと微笑む


***


夜も更け 今日は泊まっていかれるらしいおふたりの
寝床を確保

大河さんがお風呂に入っている間
真島さんと話をしていた

他愛もない話をぺちゃくちゃと

「冴島の兄弟の何処が好きなん?」

「えっ!そ、そうですね…優しくて、包容力があって、言うところはちゃん言うところとか、…あと筋肉が好きです」

「筋肉ぅ?」

「はい!最初見た時は驚いたんですけど、惚れました」

ふふ、と微笑むとどれ
とパイソン柄ジャケットを脱いで 筋肉を披露してくれた

「ふわぁぁぁ…!」

「どや!兄弟には劣るやろけどなぁ」

けたけたと笑いながら ボディービルダーみたいにポーズを決める

「さっ!触ってもいいですか…!?」

「かまへんでぇ!」

「ぁ、ありがとうございますっ」

そっと上腕二頭筋を触ってみる
細身なのかと思っていたら 意外と筋肉が確りしていて
大河さんよりは小さいのに なんだこの筋肉の硬さ…有り得ない!

「すごい…」
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