あんスタ創作小説

□妄想の塊だね!
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「んんー・・・今日は良い歌詞浮かんで来そう・・・」
夢ノ咲学園にサンプル曲を持ってきた私、花ノ音学園作詞科一年の隻原珠希はイヤホンしながら呟く。イヤホンは3DSに繋がれていて、画面にはシアトリズム・ファイナルファンタジー。FF13の戦闘曲を流していた。タイトル画面の時に流れるのも好きなのだが、此方の方が良い歌詞が思い浮かびそう。気分も上々、いつもより多くの歌詞達が浮かびそうだと心が弾んだ時だ。
「うわっ・・・・!?」
「あっ・・・!!」
ドン、と体に軽い衝撃。床に尻餅をついてしまいそうになったが、なんとか体制を立て直す。目の前には片目が髪で隠れている男子。にしては、小柄な方だった。私より少し大きいくらいだったから、衝撃も少なかったのかもしれない。
男子はアタフタしていたが、はっとして勢いよく私の方を向き頭を下げた。
「ごっごごごっゴメンナサイでござる!!わ、悪気はなかったのでござる!!!」
知ってるよそれくらい。ただの事故なのに、何故こうも『殺さないでください!』と言わんばかりの気迫で謝っているのだろうか。あと”ご”言い過ぎ。しかも”ござる”って・・・・。
私はどこか怪しい男子に剣呑な視線を浴びせつつ、言葉を返す。
「私も音楽聴きながら歩いてたし。お互い様でしょ」
衝撃で押してしまった一時停止のボタンを再度押す。そして、頭を下げる男子の横を通り過ぎた。
「じゃ・・・」
・・・・・・やってしまった。私は人と関わるのが極端に苦手なのだ。関わって、何かを手伝わせてしまったり心配させてしまったら、”私のせい”なんだ。迷惑は、かけたくない。冷めた態度をとってしまっているのは、自分が一番解っているのに・・・・。さっきの男子が気になり、後ろを向いてみる。
・・・・が、姿は見当たらなかった。
「・・・・サボテンダー・・・・・・・」
動きの素早さをFFのモンスターに例えたあと、私は少しの罪悪感と共にまた廊下を歩き出した。
「・・・仲良く、なったりはできないであろうか・・・・拙者、なんだか今凄く・・・・・・」
熱くなって逃げ出してしまった人見知り忍者もまた、違う思いを抱いて廊下を歩き出すのだった。
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「ますさん!どもっす!」
大事なリーダーに敬礼のご挨拶。それを何故か不服そうに、ますさん事土方真澄さんはため息を吐いた。
「・・・誰が”ますさん”だ」
「え?そりゃ勿論、平成の土方歳三な貴方の事じゃないですかー」
悪びれる様子もなく、隻原晋作は笑顔で言う。違うそうじゃない。俺はいつから平成の土方歳三なんてモンになったんだ。ますさんとか意味が解らん。
「あ、まっさん・・・と、しーさくさん。相変わらず早いですね」
「藤岡・・・・・」
扉を開けて現れた青年に俺は呆れる。まっさん・・・自分は本当に先輩なのだろうかと、頭を抱えたくなった。藤岡龍馬・・・彼は平成の坂本龍馬に仕立てあげられている。本人もわりと乗り気なのが面倒だ。要領は凄く良いのだが・・・どこか、どこか抜けている。
「つーか、まっさんって・・・どこの朝ドラタイトルだよ」
「あっ!”マッサン”!俺結構好きだったんですよねー!」
そう呟けば、晋作が話に乗って来てしまった。彼の朝ドラ知識はハンパない。恐ろしいくらいに。藤岡はそれを聞いて、顎に手をやり小さく唸った。
「オレ、”梅ちゃん先生”以外ろくに観てないんすよね・・大河ドラマ専門っつーか」
「んお、そうなのか?俺、大河ドラマは”天地人”チラーっと観たくらうなんだよなぁ」
二人の会話が弾む中、再び俺は小さくため息を漏らした。歴史物が好きな二人だが、歴史の勉強はからっきしなのである。もう少し、歴史物のドラマや番組を観る意欲を歴史の勉強に向けてほしいものだ。
「あははっ、練習してないのに疲れ顔だね」
「・・・グラバー」
ふわりとした甘い声に顔をしかめる。この感じは、大方俺の事をからかっているのだろう。グラバー・ウラド。元々フランス人なのだか、日本で育ったから英語は喋れないとか。俺の同期で、結構気が合う仲間。時々面白がって俺をからかうのは許せないが。
「まーまー、そんな顔しないで。二人も、そろそろ練習始めよう。来週が本番なんだから」
「はーい」「うす」
・・・人を動かすのが得意だ。コイツがリーダーになれば良いのに・・とつくづく思う。『土方歳三は鬼の副長だったんだから、ますさんがリーダーやるべき!』なんて理由でユニットのリーダーにされてしまった苦い思い出が蘇った。・・・忘れよう。練習で流そう。俺はメモ用紙を取りだし言う。
「狼幕、活動開始。今日の練習メニューを伝える」



”夢ノ咲&花ノ音学園合同ライブ”
そう書かれたカラフルなチラシを手に、私達はその会場に来ていた。正直私は来たくなかったのだけど、先輩に誘われたら断ろうにも断れなくて。
「晴れてよかったですね。無事にライブできそうで良かったです」
作詞科の先輩、藤岡海が言う。安堵の表情が浮かんでいた。それに続いて一人の少女も言葉を放つ。
「そうですね!『おてんとさま』がお兄様の邪魔をしたら私が許しませんけど!」
ワラクレア・ラヴド。作曲科の一年生。時折こんな発言をしてくるから、怖くて自分から話しかける事は少ない。世に言うブラコンとSがくっついたような少女だ。
「天気に許すもなにもないだろ。クレア、それよりメモ帳ちゃんと持って来たのか?」
そんな彼女に問いかけるのは、土方菊音。作曲科の三年生で、口調は少し乱暴だけど優しくて頼れる人。この人の前では、私も少し素直になれる。
・・・おわかりいただけただろうか。ここにいる全員、狼幕のメンバーと関係があるのだ。海さんは藤岡君とは従兄弟、クレアさんはグラバーさんの妹。菊音さんは土方さんと双子で、菊音さんの方が先に産まれたとか。そして私は、隻原晋作の妹。ほら、全員関係あり。
「はあ・・・シアトリズムしよ」
そんな三人と一緒に、人が集まるライブなんて物を見に来てしまったんだ。騒音が何かと苦手な私はイヤホンをして3DSへと目を向ける。菊音さんが何か言ってるけど気にしない・・・。


「ふふふ・・・珠希来てるんだよな、探せるかなぁ」
緩む顔を抑える。ますさんがしっかりため息を吐いたのが解った。
「お前、ライブ中に妹探すとかやめろよ?」
「えっ・・・ヤダナーソンナコトスルワケナイジャナイデスカー」
心を見透かされたような感覚に言葉がカタコトになる。俺達のやり取りを見てか、グラバーさんが笑う。
「俺より外国人っぽいよ、晋作」
「ええ!?俺って、演技もできるかも!」
「いや、それはないと思う」
龍馬の冷静なツッコミが入った所で、夢ノ咲学園のアイドル科がやってきた。三組か・・・カラフルだなぁ。一組だけ戦隊っぽい組があるのもまた面白い。各ユニットのリーダーと思われる人物が此方に近づいてくる。挨拶をしに来たんだろう。
「お前らが狼幕か!俺はRa*bitsのリーダー、仁兎なずなだ!」
可愛い系のユニットらしい。リーダーと名乗る彼、他Ra*bitsメンバーと同じくらいの身長の高さ。きっと一年生なんだろうな、と心の中で思う。
「名前の通り兎みたいですね」
藤岡が呟く。なずなは胸をはり言葉を続けた。
「今日はよろしくな!”に〜ちゃん”って呼んでくれも良いんだぞ?」
「一年に兄貴とか呼べるかよ」
ますさんがキッパリと言い払う。相変わらず容赦ねぇ・・一年泣くだろ。と思ったのだが、なずなは顔を真っ赤にして声をあげる。
「んにゃあ!おれは三年生だ!見た目で判断するにゃ! 」
「え?わ、悪い。次から気を付けるようにする」
こういう所は真面目なんだよな、ますさん。なずなも暫くムスっとしていたが、許したのだろう。『まぁ良いや』と機嫌を戻してくれた。
「俺は流星隊の守沢千秋だ!よろしく!」
戦隊物風のユニットのリーダーが元気よく言う。イメージカラーは赤と見た。ますさんは受け流すように『ああ』と一言だけ返した。
「ホッケ〜!ほら早く挨拶してきなよ!」
「緊張してるんだ!お前みたいな馬鹿とは違うから!」
後ろの方が騒がしい。もう一組のユニットのリーダーらしき人物が、メンバーに背中を押されてやってきた。緊張した面持ちで彼は挨拶をする。
「氷鷹北斗、です。Trickstar・・です」
半分くらい語彙力が無くなってるが、しっかりしてそうだ。後ろにいるメンバーのまとめ役にはピッタリだと思う。グラバーさんは『この三組かぁ』なんて呑気に呟いていた。
「Switch、2wink、Knights・・・お目に掛かるのは中々ないけど、Valkyrie、UNDEAD、fineとかいるよね。うちはアイドル科少ないから、なんだか羨ましいなぁ」
「すげ!グラバーさんめっちゃ知ってる!」
「なんで英語明記ユニットばっかり・・・?」
「作者が英語苦手だから、今のうちに打っておいてるんだろ。あとで見て打てるように」
「「あっそれ言っちゃ駄目なヤツです」」
メタい話は取り合えず置こう。グラバーさんはうちの大事な知識だ。俺はパッション、龍馬は不思議枠、ますさんはリーダーという役割を担っている。いつも情報はグラバーさんから頂いていたりする。
「に〜ちゃんさん、お菓子食べます?余り物ですけど・・・」
「お!ありがとな!・・・えーと」
「藤岡龍馬っす」
「ありがとな、りょ〜ちん!」
いつの間にか仲良くなってる二人。てかあだ名つけるのかあの人・・・。龍馬のコミュ能力に驚いた所で、呼び出しが入る。
「皆さん、出番です!お願いします!」
「お!キタキタ!頑張ってくるね、プロデューサー!」
Trickstarの子がプロデューサーと呼んだ人物・・・女の子だった。あれ?夢ノ咲のアイドル科って、女子はいなかったんじゃ・・・・?
「あ、あの!狼幕さん、今日はよろしくお願いします!」
「・・・おう。よろしくな」
ますさんも困惑してたらしい。すぐに切り替えたけど。そして、視線を俺達にやる。
「行くぞ」
「「「御意ー!」」」
「そのノリやめろ恥ずかしいからああ!!」



イヤホンをしてても聴こえるくらいの大音量。やっぱライブってこうですよね。ステージには何組かのユニットが立っていた。自己紹介しているんだろう。勿論、兄の自己紹介はあれだろう。
『平成の高杉晋作!!こと、隻原晋作だ!よろしくなー!!』
精神的にイタイ自己紹介を良くもまぁ言えること。一周回って尊敬の視線を浴びせられるくらいだ。・・・と、見たことのある人物を見つける。服は戦隊物風になっていたが、ちょっと前に夢ノ咲へ歌詞提供しに行った帰り、廊下でぶつかった少年がいた。少年が自己紹介する時、私は無意識にイヤホンをはずしていた。
「流星隊イエロー!仙石忍でござる!」
柔らかくもしっかりとした男の子の声が、バッグで流れている曲と共に心地よく耳に響いた。
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