あんスタ創作小説

□妄想の塊だね!
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私は見てしまった。ライブのアイドルが自己紹介する時、珠希ちゃんがイヤホンを外した所を。・・・なんで。
「珠希ちゃん大丈夫?体調崩した?」
「えっ?な、なんで・・別に普通ですよ」
私の問いかけにステージに目がいっていた二人もふり返る。そして、さっきの私と同じように瞳を大きくした。
「何か変な物でも食べてしまったほです!?」
「今日は暑い。熱中症にでもなったのかも知れん」
「は?・・・はぁ?」
そうでもない限り、珠希ちゃんはこんな事しない。今は夏休み。菊音さんの言っていた熱中症かもしれない。そしていつものドライな珠希ちゃん思考が可笑しくなってしまったんだ。私達は急いで珠希ちゃんを木陰へと引っ張る。
「ちょっ!?何するんですか・・・!!」
「いいから休め!異常事態だ!」
「だからどこも可笑しくないですってば!はーなーしーてー!!」
抵抗するように暴れだす彼女。どうにかして移動させようとした時、彼女はピタリと動きを止めた。更に悪化してしまったのかと一瞬冷や汗をかいた。が、珠希ちゃんの視線はステージ・・・一人のアイドルと目が合っていた。周りより背が低めのアイドル君は暫く呆然としていたが、すぐにそっぽを向いてしまう。知り合い、なのだろうか。
「あのボーイ・・・顔が真っ赤でしたよ、海さん」
「え?此方を向いてたのは解ったけど・・・」
『顔までは見えなかったよ?』とクレアちゃんに言う。でも、クレアちゃんは確信しきっているらしい。
「お兄様を遠くでも見れるようにと鍛えたこの眼力に、嘘はつきませんわ!」
・・・ああ、聞かなきゃ良かった。ただ単にめちゃくちゃ眼がいいだけだと思っていたかった。菊音さんも苦い顔して此方に視線をやってくる。私も苦笑いで返すしかなかった。
「・・・あー!見つけた!皆さん注目! あれ、ツインテのね!俺の妹なの!」
マイク越しでより大きく響いた声。珠希ちゃんは露骨に『マズい』という表情を浮かべ、一生懸命やめろと伝えているみたい。だけど、晋作君には届かず。
「珠希って言うんですよー!あっちの美人さんは菊音さん!ますさんと双子なんですよ!で、サイドテールしてるのが龍馬と従兄弟の海さん!クセっ毛の小さい子がグラバーさんの妹さんね!」
私達の紹介までされるのは想定外だった。お客さんの視線が一気に此方へ向く。突然のできごとに『どうも・・』という挨拶しか返せなかった。女性の視線が体にはグサグサ刺さるし、男性の視線はなんだか値踏みをされてるようで気持ち悪い。珠希ちゃんが小さく『ライブ終わったら即殺す』と呟いたのは・・きっと気のせいだと思いたい。


「本当信じられない!最低!死ね馬鹿兄貴!!明日日曜日でゲーセン行く日だけど一人で行くから!!」
ライブ後、俺達が控えていた場所に珠希がやって来て晋作に殴りかかった。勿論彼は『ごめんて!』なんて謝りつつ腹パンくらったりしている。
「許して・・・FFの最新作買ってあげるから・・・」
命乞いするかのように晋作が呟く。そんなもんで怒りが収まると思ってんのか?アイツは・・・。小さく呆れた時だ。
「・・・限定版」
「はい」
「許す」
・・・許すのか・・・・・・。コミカル?な兄妹喧嘩は決着がついたらしい。やっぱ女って強いな、なんて感心してしまった。
「やんちゃね、私達とは違うわ」
「・・・ねーちゃんと俺は年一緒だし。仲の良い友達感覚だったんだろ」
どこか微笑ましそうに光景を見つめていたねーちゃんが言う。喧嘩の思い出とかないな、なんて思いつつ俺も言葉を返した。
「帰る。約束守ってよね」
「はい」
珠希もやっと落ち着いたらしい。外へ出るため背を向けた。と、珠希は立ち止まる。ねーちゃんも不思議そうに首をかしげて珠希の背中を見つめる。外には、流星隊のチビ・・仙石忍が立っていた。



なんで、こうも私は運が悪いんだろう。さっき目線が合ってしまった、廊下でぶつかってしまっただけの人物と、こうも巡り会わなければいけないのだろうか。相手もしどろもどろしている。何故か顔が赤い。どうしたら良いのだろう。此処は軽く感想を言ってから通り過ぎた方が良いのだろうか・・・。
「・・・良かったんじゃない?」
「!?あ、え、と・・・」
「じゃ・・・」
・・・作戦成功!!無愛想を見せつけるような形をとってしまったけど!別にいいや!FF買って貰えるし!何か言いたげだったけど気にしないわ!私はウキウキしつつ帰るんだい!
・・・どこか残る違和感と一緒に。


「・・・・・・」
間違いないですわ。あの表情・・恋をしていらっしゃる。お兄様に恋をする女と似た顔をしていたから、何となく解った。私は彼に近寄り、耳打ちするように告げる。
「花咲の中にあるゲームセンターに行けば会えるのですよ」
「へ!!?」
驚きに満ちた声をあげる少年。ふふん、私を完全に侮ってましたわね。少年は暫くしたあと、さっきの私と同じように小さな声で言葉を発する。
「本当で、ござるか・・・・?」
「ええ。本当でござるよ」
面白くなって彼の真似をして返す。途端に表情が明るくなり、瞳が輝いた。そして私の手を掴み、小さな声で言葉を返した。
「拙者、頑張るでござるよ・・・!!」
・・・ふふふ。面白くなってきてきましたわ。平日になってから珠希の感想が気になるですわ。早く聞きたい・・・心はそんな思いに溢れていた。



なにしようかなー。次の日、私は一人で夢咲(イ○ンみたいなとこ)の中にあるゲームセンターと歩いていた。勿論一人で。兄とはFF最新作を買ってもらうまでゲーセンには連れていかない事にした。とわいえ、一人ではやるゲームも限られてくる。UFOキャッチャーは苦手・・リズムゲームは相手がいないと個人的に面白くない。一人で淡々とシューティングゲームをするのも味気ないし・・・。冷房の良く効いた辺りで考えていると。
「・・・え」
知り合い・・・というか、まぁ・・・あの少年がいた。しかも此方見てるし。この遭遇率・・偶然ではないような気がしてきた。実はSTK(ストーカー)だったりするんだろうか・・・いや、そんな勇気なさそうだし、可能性は低いと思うけど。とりあえず、自分の運を誰かに擦り付けたくはなった。
無視して逃げようとした、が。
「あっ・・あの!拙者、怪しい者ではなく・・!」
まさかのあっちから話しかけてきた。どうする事もできない。もう逃げ場がなくなった。さよなら、私の幸せな休日・・・。腹をくくりふり向けば、少年はすぐ目の前に。
「・・なんか、用でも?」
「え・・と・・・」
自分から声をかけておいてゴモってしまうなんて、コミュ障かこの子。そこまでして私に話しかけようとする意味は一体なんなんだ・・・。呆れてしまったと同時に、少年は意を決したように言う。
「せっ・・拙者と!”でえと”してほしいでござるよ!!」
「・・・・・は?」
サンダガに当たったらこのくらいの衝撃なのだろうかと現実逃避・・・・といくか、錯覚する。そして沈黙が流れたのは言うまでもない。
私、疲れてるのかな・・・・・。
休日がこんなに疲れるものになってしまったのは、一体何故なんだろう。
私の多大なる疑問には、誰も答えてはくれなかった。
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