あんスタ創作小説

□妄想の塊だね!
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暗くなって来た頃、人だかりは河川がある方へと流れ始める。そろそろ花火が始まるから、場所取りでもし始めるのだろう。会場は有料席だし、見るならやっぱり河川かな・・・いや、見るとはまだ決めてない。帰りに見るかもしれないし、そもそも此処でこの小さい忍者とお別れできるかどうかの問題からだ。・・・多分、無理な気がするけど。
「花火、もうすぐだね」
「・・・・そうでござるな。なんだかあっという間に時間が過ぎてしまっていたでござるね」
流れていく人混みを眺め、呟く。
・・・あれ。ゴモったあと、お誘いが来るパターンじゃない・・・・?どこか違和感を感じたと同時に、仙石は私の方へふり返った。
「今日はとても楽しかったでござるよ。・・・感謝しきれないでござるなぁ」
そう、どこか哀しげな笑みを浮かべ言葉を漏らした。
待って。違う・・・いつもと違う展開に私は困惑する。そして困惑したせいなのか、普段・・・今までの私なら絶対にしなかった行動に出てしまった。
「行こう」
「えっ・・・!?たっ珠希殿!?どこに・・・」
「花火大会でしょーが。花火見ないで終わってどうするのよ」
相手の手首を掴み、河川の方へと歩き出す。なんでこうなったのか、自分でも解らない。でも、今此処で解散したら・・・会えなくなるかも、なんて可笑しな考えをしてしまったのだ。柄じゃない。暫く歩いて、河川が目の前に見えた時。私は不意に立ち止まる。自然と、言葉が零れた。
「嫌なら、帰っても良いよ。過ごし方なんて人それぞれだよね・・私の勝手な考え押し付けた所で、楽しくないだろうし」
ここまでしておいて、このマイナス思考。呆れ返るだろうな。あ・・私が行動するとやっぱり迷惑になるんだ。
・・・母さんの言ってた事、本当なんだな。今更後悔の波が押し寄せてくる。
「そんな事ないでござるよ」
優しい声音。後悔の気持ちを掻き消してくれるようだった。ふり返ると、ふんわりとした笑みを浮かべている男の子がいた。
「拙者は・・・珠希殿が一緒なら、それで幸せなんでござるよ?」
胸の奥がキュンとする。鼓動が早くなるし、暑い。”弟”じゃなくて”男の子”、そう思った。・・・きっと、顔真っ赤なんだろうな。夜で良かった、なんて。ヒュルルル・・と音たてて空にに上がった花火が、河川を流れる川の水面に映り、キラキラと輝いた。いつもより、とても輝いて。


「おっ!上がったぞ!綺麗だなあ」
無邪気な笑顔を浮かべ子供のようにはしゃぐ彼を横目に、私はふっと息を吐く。本当は一緒にいたい・・でも、迷惑なんてかけられない。私が悪いの、この人はアイドルなのに・・・好きに、なったのが。
「あの・・私、用があるんで。もう、帰りますね?」
逃げるように立ち上がる。刹那、歩こうとしたが歩けない。・・・守沢先輩に、手を掴まれたせいで。
「なにか、あったのか?」
声をかけてきたのは守沢先輩の方からだった。心配させたくない・・・それに、これは私の問題だ。私は無言で首を横に振る。だが、掴まれた手はいつまでたっても離してもらえず。
「・・・俺のことが、嫌になったか?」
いつもより、真剣さを帯びた声に体がビクリと揺れる。私はいつの間にかふり返り、声をあげていた。
「そんなわけっ・・・・!!」
一瞬だった。手元を引き寄せられて・・・守沢先輩の方に、引き寄せられて。気づいた時には、腕の中にいた。
「泣きたいなら泣けばいい。一人で悩んでたって、辛いだけだぞ?」
優しい声が降ってくる。こういう時だけ、妙に勘が鋭いのは困る。涙が・・・止まらない。
「っ・・・う・・・・・・どう、して・・・?」
嗚咽混じりに問いかける。彼は優しい笑顔を浮かべ、私の頭を撫でながら言った。
「困った人を助けるのは、ヒーローとして当然のことだ」
・・・やっぱり、嫌いなんてなれないよ。
罪悪感と安心感が混じった心境の中、私はなるべく声を押し殺しながら涙を流した。

「あーあ。・・・約束を守れない子は、お仕置きしなきゃね」



「凄く綺麗ですね・・って、寝てる」
声をかけた相手は、完全に熟睡していた。疲れてたんだろう。急なライブにも参加してもらいたいと、無茶を承知で頼んだ私も悪いと思う。・・・似てるなぁ。彼、土方さんの頬にそっと手をやる。
どこか見たことがあって・・・他人じゃない気がして。でも、土方真澄なんて子、小学校にも中学校にもいなかったはずだし・・。モヤモヤした感情が心の中で渦巻く。
と、不意に土方さんが此方の方へ倒れてきた。
「うえっ・・・!?」
突然の出来事に混乱する。アイドルによっかかられてるなんて・・・女の人嫉妬所じゃないよ!? どうしよう・・・!!このままだとちょっとアレだし・・・でも、動かしたら起こしちゃうかもしれないし・・・!?
「真澄は熟睡するとちょっとの事じゃ起きないよ。寝かせておきな」
と、上から声が降ってきて。見れば、真澄さんの双子のお姉さん、菊音さんの姿が。取り合えず土方さんを横にしたあと『有り難うございます』と菊音さんにお礼を言う。菊音さんは『別に良いよ』と、優しげな笑みを浮かべた。
「・・・にしても、真澄が平気な女の子が出てきたとはねぇ」
「へ?」
菊音さんの意味深な発言に私は首をかしげる。どういう事?私の心を見透かしたように、菊音さんはすぐに説明し。
「真澄は女が苦手なんだよ。昔のトラウマでね。・・だから、あまり自分から近づこうとしないし、自分に近づけさせないんだけど・・・」
『不思議な事もあるんだねぇ』と、菊音さんは言う。
凄く、気になった。こういう事、本当はあまり聞いちゃいけない事なんだろうけど・・この時は何故か聞かなきゃいけない気がして。
私は、静かに問いかける。
「あの・・・トラウマ、って・・・・・・」
その言葉に。菊音さんは小さく笑う。そして、悪戯な笑みを浮かべたまま、問いかけ返して来た。
「ふふっ・・マセガキの話、聞く?」
マセガキ?
・・・疑問を抱いたまま、私は小さく頷いた。


「あ、クレアちゃー・・て、その人誰?」
うち上がる大輪の花火を横に私は問いかける。クレアちゃんの姿が見えたから声をかけてみたのだが、クレアちゃんの横には知らない男の子。しかもクレアちゃんはいつも以上にご立腹らしく、頬を膨らませていた。と、私の横にいた・・羽風薫さんが驚き混じりに言う。
「わんちゃん?なんで此処にいるのさ」
「うえ・・羽風、センパイ」
男の子は慣れてない敬語を使っているみたい。顔は凄くしかめてたけど。二人はどうやら知り合いらしい。羽風さんの知り合い・・ユニットの一人なのかな、この子も。
「海ちゃんは楽しそうですわね・・私なんか、こんな犬と一緒に行動してましたのよ?」
クレアちゃんは露骨に肩を下げる。にしても・・・”わんちゃん”とか”犬”とか、この子一体何者なんだろう。もしかして、人間じゃなかったり・・・?
「あ、アイツは俺と同じユニットの子でね。大神晃牙くん。自分で狼とか言っちゃってるからら、わんちゃんね。海ちゃんと同い年」
羽風さんが笑みを浮かべ言う。狼なのに犬なんだ・・・。私はまじまじと大神君を見たあと、正直な感想をのべる。
「・・・なんか可愛いー」
「かわっ・・!?なっ、んだとテメッ!!」
「海ちゃん!こんな犬が可愛いなんてあり得ないですの!」
クレアちゃんがすぐさま私の意見を否定する。そんなに嫌いなのかな、大神君の事。その言葉が切り札になってしまったのか、また大神君と口喧嘩しはじめてしまう。・・・喧嘩するほど仲が良い、のかな・・・・・?
「あれ〜?わんちゃん、気に入ってるんだねその子」
ふと、羽風さんが意味深な一言。さっきまで言い合いをしていた大神君が固まる。表情は見えなかったけど、すぐに否定の言葉が飛んできた。
「気に入ってる訳ねぇだろ!!なんでそーなるんだよ!!?」
羽風さんはいつも通りの声音のまま『ゴメン、ゴメン』なんて軽く謝る。なんか、大神君の言葉の返し方・・・珠希ちゃんに少し似てるなぁ。ちょっと強い感じ。大神君、もしかして・・・
「つんで」
「あ!あちらにいるのは、珠希ではありませんの!?」
言おうとした言葉をクレアちゃんに遮られてしまい、少しムスッとしてしまう。でも、クレアちゃんが指差す方向には本当に珠希ちゃんがいた。隣には・・・流星隊の子。もう、とっくに解散してるかと思ってたんだけど。意外だな、なんて思いながらその光景を眺める。と、羽風さんが私の肩を指でつついてきた。ふり向くと、羽風さんが私の耳元でひっそりと呟く。
「ねぇ。さっき言おうとしてたのって・・・?」
「えっ?あー・・大神君って、ツンデレってヤツなのかなって思っただけです」
私もつられて声を潜めながら答える。羽風さんは『成る程ね・・・』と口元に手をやり呟く。・・・耳元で声をかけるのは、反則じゃないでしょうか。頭がパンクしそうになるのを抑えるため、花火に集中する事にした。
・・・その頃、珠希ちゃんもまたドキドキな展開になっていたとは知らずに。
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