“形“ “真“ “理“

□花売りの噂
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「形、真、理をもって・・・その感情、包み込ませてもらう」



「あー!金城哉明(キンジョウカナアキ)夫婦逮捕だって!この人、すっごいお金持ちだったよね?」
スマホをいじる女子高生と思わしき人物が甲高い声をあげる。周りにいた数人の女子もそれに対して言葉を漏らした。
「なんでも、娘を虐待してたらしいよー」
「ご飯もあげず部屋に監禁してたら死んじゃったんだって。かわいそー」
いかにも他人事といった様子である。きゃあきゃあと騒いでいる時、ふわりと甘く独特な香りが風と共に女子へと届いた。とても心地よくなる香りだ。甘い、がどこか青臭さも感じる。
「なんだろ、この匂い・・・・え、」
一人の女子高生が風の吹いた方向を振り返ると、いつの間にか人が立ってることに驚きの声を漏らす。女性ものの和服を着込んで、背中には大きな箱を背負っている。和服にはまるで迷路のように黒い線のような模様が入り乱れていて、箱の面には蝶が描かれていた。此方の視線に気づいたのか、その人物はゆらり、と体を向き直した。目の下には特徴的な紅の化粧のようなものが施されている。髪を緩く一つに結び、肩にかけている様はまさに優美。
「綺麗な人・・・・」
一人が小さく呟いた。それと同時に、袖を揺らして此方へとゆっくりその人物は歩み寄ってきた。そして、一人の女子高生の前に立ち、手を引く。
「えっ!?あ、あの・・・」
戸惑う女子高生に有無を言わせず、その人物は何かを女子高生に少々強引に持たせる。
「プレゼント。アンタに似てる花を丁度持ってたから」
凛としていて、女性のような高さを持つ声で放たれた言葉と共に添えられたのは、一輪の花。淡い赤褐色をしたものだった。
「小海老草・・・まぁ、名前の由来は見ての通り海老に似てるから」
ご丁寧に花の説明までしてくれる。それが現代女子高生の妙なツボにハマッたらしく、女子高生は瞳をキラキラと輝かせた。
「有り難うございますぅ!あの、貴方って何者ですか!?普通の人じゃないですよねぇ!?」
勢いづく女子に『おおっと』とその人物は声を漏らす。薄い笑みを浮かべるその人物は、それとは間逆に静かな返事を返した。
「ごく平凡的な、しがない花売りだよ」



木製建ての旅館の前に、男は立っていた。その現代とは全く相容れぬ服装と独特な雰囲気が周りの視線を集める。男は独り、まるで誰かと喋っているかのように口を動かしていた。男が背負っている奇妙な模様が印されている箱からは、カタカタと何かがうごめく音がしている。暫くしたあと、男は下駄を鳴らし、その旅館へと入っていく。
「宿を、探してたもので。今晩、宿泊・・できます、かね?」
独特な口調に出迎えた旅館の女はいぶかしげに顔を潜める。が、男の顔を見た途端、頬を赤く染め『はい、大丈夫ですよ』と手のひら返し。口元に施されている紫色の紅が、その姿をどこか嘲笑っているようだった。



__だいじょうぶ、これで”いっしょ”だよ。

____うん、これできっと”いっしょ”になれるよね

__よし。目を閉じて・・・

参、弐、壱____




「・・・胡蝶草、ねぇ」
旅館の前に手向けられた花を見つめその人物は呟く。枯れかかっているその花に指先が触れた瞬間、音もなく花は光のように消えた。代わりに聴こえたのは、鋭い風の音とゴロゴロという音を空で響かせる雷雲の声。少ししたあと、ゆっくりと瞳を開き人物は言う。
「風神、雷神・・・・か」
背負った大きな箱から、鈴に似た
シャランという音が響いた。その頃には、その人物は旅館の前に立っておらず、愛想のよく薄い笑みを浮かべ旅館の中でこう言ったのだ。
「部屋、空いてますか?」
 

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