◇◆樋口与七◆◇
□秋色の心
1ページ/4ページ
山が恋に落ちたように
彩(いろ)付く。
赤く
紅く
それぞれに恋がれる彩葉(いろのは)
「ねぇ、兼続!お願いだよ!
早くしないと、いってしまう!!」
私が今、身を寄せている
春日山の城主・上杉謙信様が
近臣の直江兼続様に何かをお願いしているように見える。
庭で皆様のお洗濯を干していると
そんなやり取りが聞こえてきた。
ちらりと
視線を感じたと思ったら
謙信様が私の方に来られる。
?
私の肩に手を置いて
ぐいぐいと押す。
「あ、あの、謙信………様?」
とうとう
兼続様の前まで訳がわからぬまま
進んでしまう。
「名無しさんも、見たいよね!」
「見たい?」
な、何を?
「はぁぁ。名無しさんを!巻き込まない!」
兼続様の剣幕にびくりと肩が震える。
「あ、あの、“見たい”って言うのは?」
ようやっと、それだけを伝える。
「ほら。名無しさん、彩りの妖精がね?
裏山に来ているんだよ。
だからね?
戯れに行こうよ?皆で!
名無しさんのお弁当、食べたいな。」
“皆で”
その言葉に、掠めた…面影。