嫁入り道具の奮闘記

□兄弟の集い(弐)
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小さい兄弟と一期さんが来てから一ヵ月ほど。だんだん大人数に慣れ始めた審神者さんは、鍛刀任務を定期的にやるようになった。
・・・うん、いい傾向だ。
そのおかげで本丸の人数も少し増え、最近では遠征にも出られるようになった。

ちなみに誰が増えたのかと言うと・・・


「おーい、藤ー!」


「おや国俊、お疲れ様です。何かありましたか?」


「ん?いやそうじゃないけど、今日のおやつは何かなぁと思ってさ」


「今日は時間があったのでシフォンケーキにしてみました。厨に国俊の分も取ってありますよ」


「よっしゃっ!ありがとな」


「いえいえ、どういたしまして」


・・・と、一人目は来派の短刀、愛染国俊です。最初は愛染と呼んでいたんだけど、他ならぬ彼に国俊と呼んでくれと言われたのでそう呼んでいる。
目立つ赤髪をしている彼は、雄叫びのようなものをあげながらパタパタと廊下を走って行ってしまった。

さて、私も用事を終わらせなくては。
そう思って再び廊下を歩きはじめると、向かいの角でトンッと誰かにぶつかってしまう。慌てて顔を上げるとそこには・・・


「す、すみません、倶利伽羅殿」


「・・・別にいい。気を付けろ」


「はい、ありがとうございます」


・・・と、二人目は大倶利伽羅さんです。審神者さん曰く、刀種変更された打刀だそうで、打撃や生存など私たちより強いです。即戦力だね。
ぼんやりと彼を見上げると目の前の倶利伽羅さんは、眦を少し上に釣り上げて私の名を呼ぶ。


「藤」


「はい?」


「お前、今日の夕餉は作らなくていい」


「えっ、ですが・・・」


「・・・働き過ぎだから休め、と言っている。気にするな、俺と堀川だけでも何とかなる」


「・・・はい、わかりました。そこまで仰るなら」


「あぁ、それでいい」


私が渋々頷くと、彼はゆるりと目元を緩めて見せた。
この会話で分かるかもしれないが、何と彼はこの本丸で家事が出来る刀剣三振り目(あとは私と小さい兄弟)なのだ!
いやぁ、倶利伽羅さんのおかげで大分楽になりました。やっぱり3人いると結構違うものですね。
ちなみに、『殿』と付いてるのは一期さんのときの『様』と同様に勝手に口が言ってるみたいです。

もう一度倶利伽羅さんに頭を下げて、さらに奥に進んで行くと今度は畑の方で大きな声が聞こえた。
私はその声に何事か、とつい目を向けた。


「あ゛ぁー!いつまでこんな事してりゃあいいんだよ!!?」


「あっ、駄目だよ兼さん!ちゃんとやらないと」


・・・と言うわけで、三人目は和泉守兼定さんです。彼も俱利伽羅さん同様刀種変更で打刀になった刀で、うちの小さい兄弟がその執念で鍛刀のときに審神者さんに顕現してもらった一振りである。
・・・いや、あの時の小さい兄弟は怖かった。本当に。私も兄弟も若干距離(物理)をおいてしまったくらいだし・・・。

そんな彼は現在小さい兄弟と二人で、内番である畑仕事をしているらしい。どうもやる気の出ない兼定さんがイライラと声を荒げていた。


「でもなぁ国広、何だってオレたち刀が畑仕事なんか・・・」


「でもウチは自給自足だからしょうがないよ。ほら、早く仕事しよう?」


「・・・チッ、しゃーねぇな」


うーん、流石は小さい兄弟。兼定さんとは長い間一緒にいたらしいし、彼の扱いはお手の物!って感じなのかな。
そう思って眺めていると、小さい兄弟が私に気が付いたらしくこちらに向かって手を振った。
・・・そう言えば脇差は偵察値が高いんだっけ、なんて考えながら私も手を振り返すと、芋蔓式で兼定さんにもバレたので二人に声をかけた。


「お二人ともお疲れ様です」


「うん!兄弟もお疲れ様」


「おう、藤じゃねえか!お疲れ」


「ふふっ、ありがとうございます。二人とも頑張ってくださっているみたいで安心しました」


「そうだ、聞いてよ兄弟!さっき兼さんが」


「バッ!国広っ!?てめぇ余計な事言うんじゃねえ!!」


「わっ!兼さんが怒った」


私に何か言おうとした小さい兄弟の言葉を遮るように、兼定さんが慌てて声をあげて手を伸ばした。
それに気付いた小さい兄弟が素早く逃げだすと、兼定さんも追いかける。・・・するとどうだろう、畑で鬼ごっこが始まっていた。

突然の事に呆然と眺めて・・・少ししてようやく頭が追い付いた。私は苦笑を零した。二人とも本当に仲がいいなぁ。
偵察の高い小さい兄弟はそんな私も視界に入っていたのだろう。彼は何事もなかったかのように、私に顔を向ける。


「あ、兄弟」


「何です?」


「倶利伽羅さんから伝言聞いた?」


伝言、というともしかして晩ご飯作らなくていいってやつかな。


「それは夕餉の件ですか?」


「うん、そうそう」


「それなら先程聞きましたよ」


「そっか。ならよかった、最近兄弟働き過ぎだからね」


「そ、そんなことは・・・」


倶利伽羅さんと同じことを言われ思わず目を逸らすと、黙って様子を見ていた兼定さんがさっきまでの怒りを霧散させて口を開く。


「確かに働き過ぎだよなぁ。出陣に遠征、家事全般こなすとか普通なら赤疲労ものだぜ?」


「ほら!兼さんもこう言ってるし」


「もうっ、そんな二人して言わなくても・・・」


「だから今日の夜くらいはゆっくりして、ね?」


「お前が休んだって誰も文句なんか言わねえさ」


「・・・はい。ありがとうございます」


二人の言葉に笑って頭を下げると、代わる代わるに頭を撫でられた。・・・ちょっとボサボサになったのはご愛敬だろう。

適度な所で二人に別れを告げてまた廊下を歩きはじめると、今度は向かいから歩いてくる人影を見つけた。


「おや?」


「あ、藤」


「あら小夜、宗三。二人で散歩ですか?」


ってなわけで、四人目は小夜のお兄さんで打刀の宗三左文字です。
初めて彼を見た時は、一体どこの未亡人かと・・・・・・。まぁ本人は言えないのだけど。
そんな彼は私の質問に静かに頷いてくれた。


「えぇ、まだ僕の知らない部屋もあるので小夜に案内してもらっていたんですよ」


「そうでしたか。ふふっ、仲良しですね」


「うん。これで江雪兄様も揃えばもっと楽しいのに・・・」


「それは・・・姫の運に期待するしかありませんね」


小夜の真剣な言葉につい苦笑した。だが左文字兄弟が揃う日はきっと近いだろう、と私は思っている。


「藤は・・・まさか仕事ですか?」


宗三は私の手元にある書類を挟んだバインダーとファイルを目に留め、そう尋ねる。私は小さく頷いた。


「はい、そうですよ。・・・と言っても先程姫の部屋をお尋ねしたのですが、どうも見当たらなくて探しているのです。二人は何か知りませんか?」


「・・・確か大広間にいたような気がする」


「本当ですか?」


「うん。さっき見かけたよ」


「そうですか。どうもありがとうございます」


「どういたしまして」


「・・・はぁ、あなたも大変ですねぇ」


「いえいえ、そうでもありませんから」


先を歩いて行く二人を見送ってから、私も歩き出す。
行き先は大広間だ。


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