山椒魚

□弐
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side 鱒二


林太郎の考えが大体予測できた俺は、ひとまず部屋に引き籠った。勿論ぐちゃぐちゃな脳内を纏めるためである。

しかし、現在こちらにある情報は余りにも少ない。
ということで、俺は特殊な回線を使用し友人に連絡を取ることにした。これを使っているのは俺と友人、あと夏目さんくらいだ。
個人(プライヴェト)用の携帯に、長い暗証番号を手疾く打ち込む。その後真っ白い(ページ)に電話番号を打った。

俺が電話をかけてから僅か0.1秒ほど、相手が電話口に出た。
・・・相変わらずとんでもなく早いな。
まだ一つ目の呼び出し(コール)音も鳴り終わっていなかったのに。そのことに気が付いて、俺はつい苦笑した。


「もしもし・・・・・・龍太?」


「おう満寿二じゃねぇか!オレに何か用事か?」


俺の声に嬉しそうな声を返したのは、昔からの友人である飯田龍太だ。


「うん。一寸(ちょっと)お願いがあるんだけど・・・」


「そろそろ来るんじゃないかと思ってたぜ。で何なんだ?」


「『ミミック』っていう組織について詳しく調べてくれないかな?」


普段は戦場の、然も最前線で戦うのが大好きな彼だが(更に化け物並みに強い)、異能力上は情報収集や統制の方が向いているのである。
龍太の情報はマフィア内部の情報より正確だし、早いし、全体的に頼りになる。

・・・まぁ、彼が調子に乗るので直接本人には伝えたくないのだが。


「ん、了解」


「本当に有り難う、助かるよ」


「そりゃ構わねぇけど・・・今マフィア大変なんだろ?お前も気を付けろよ」


彼の情報網はとんでもなく広い。つまり、龍太は俺の現状も詳しく知っているというわけで。


「判ってるよ。じゃあまた後でね」


その言葉と共に電話を切る。後は龍太からの情報を待つだけである。・・・多分1分以内には来るだろうけど。

それにしても、織田君を呼んだってことはミミックと織田君を接触させたかったのか?
坂口君の方は多分大丈夫だよね。伊達に内務省の異能特務課なんてやっていないだろうし・・・。

その時、携帯に蒼い光が灯った。彼からの連絡である。その間約30秒程。
俺は携帯を開いた。


『ミミック』はつい最近日本に流れ着いた欧州の異能犯罪組織らしい。何でも英国の古い異能機関である『時計塔の従騎士』狙われて、追い出されたようだ。
異能犯罪組織が簡単に密入国出来る程世の中甘くはないが、多分(林太郎の指示で)坂口君の手引きがあったんだろうと思われる。
組織の人間は軍人崩れらしい。頭目は強力な異能者であり軍人、名前はアンドレ・ジイド。能力は見たところ織田君と大体同じだ。

これは結構厄介だな。未来予測かぁ・・・。
先を読まれるのは実に困る。何せ奇襲攻撃が効かないのだから。太宰君達ももう少ししたら真実に気が付くのかもしれない。否、必ず気付くだろう。
・・・そのとき、俺は本当に彼等を護りきれるのだろうか?


「これ、龍太にも協力して貰わなくちゃいけないかも・・・」


戦場を求めて彷徨う『灰色の幽霊(グラオガイスト)』。自分の生き方すら真面(まとも)に選択出来ないなんて可哀想な人達だ。
・・・同情はしても敵に容赦は出来ないが。
俺は再度龍太に電話をかけ直した。


「あぁ、何回もごめんね。追加で頼みがあるんだけど・・・」



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―――――――

―――――


それから数日後、俺は何故か太宰君と織田君と共に『あの』酒場にいた。

あれ?えっと、一寸(ちょっと)待って。俺は何で此処にいるんだ!?
訳が判らないまま酒場に続く階段を降りる。其処には見覚えのある人影があった。・・・あれは坂口君だ。

あぁ、成程ね。・・・いや、でも俺いなくても良いんじゃないかな?
何となく事情は察したが、俺がここにいる意味は結局良く判らなかった。





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