山椒魚

□参
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※若干の戦闘シーンのため、血やグロ表現があります。ご容赦下さい。










no side


鱒二は天蓋が付いた真っ白い寝台(ベッド)に腰掛け、ゆっくりと目を瞑った。


林太郎は織田君とミミックをぶつけたがっている。ミミックの頭目、アンドレ・ジイドは織田君と戦いたがっている。しかし、織田君は簡単には戦わないだろう。

ならば彼は如何するのか?答えは簡単・・・織田君が大切に想っている人を殺せばいい。
だとすれば、彼の養い子達と行き付けの洋食店が危ないのでは?


そこまで考えて、鱒二は寝台から立ち上がる。これは急速に動かなければ不味い。
けれど、敵の能力は実に厄介で、普通に動いては先を読まれてお陀仏だ。
それだけは何とか避けたい。

彼は如何頑張っても"友人"に力を借りるしかなくなったのである。



――――――――――

―――――――

―――――


「いやぁ、真逆(まさか)お前がオレを直接呼び出すなんてな」


言外に、珍しいと告げる飯田に、鱒二は判りやすく肩を落とす。


「うっ、ごめん。でも今回は如何しても龍太の力が必要で・・・」


「・・・お前なぁ、そういうの他の奴の前でやんなよ?」


「え?」


「何でもねぇ」


鱒二の反応にときめいたらしい飯田が軽い忠告をするが、本人は全く理解していない。飯田は溜息を吐きながら片手で目元を覆った。
だが、今の鱒二にとって彼の力が必要なのは、疑う事なき事実であった。


「範囲は横浜全体でいいのか?」


「うん。お願い」


「そんじゃあやるぞ。・・・『忘音』」


飯田の異能力である『忘音』は生物、もしくは周囲の物質の記憶と意識を自由自在に操るというものだ。範囲は使用者の精神に左右される。
実はこの能力、遣い方によっては相手の意識に踏み込むことで異能力や思考力、行動力などを相手に気付かれることなく制限できる。

つまり鱒二は、飯田の能力でアンドレ・ジイドの能力を制限したのだ。
相変わらずとんでもない力だなと思いつつ、鱒二は一息ついた彼に一枚の紙を手渡す。
良く見るとそこには洋食店の住所と簡易地図が描いてあった。


「俺は子供達を何とかするから、そっちはお願い」


「ん、了解。・・・満寿二、くれぐれも気をつけろよ。出来るだけ怪我はすんじゃねぇぞ!」


「・・・まぁ、善処はしようかな」


それがこの時の最後の言葉だった。彼等はお互いに踵を返し全く逆の方向に駆け出す。心配ではあるが二人はお互いを何より信用していたし、信頼していた。
だからこそ、後ろは決して振り返らない。

走る振動で鱒二に背負われた日本刀が、非道く不気味な音を立てていた。



◇ ◆ ◇



鱒二が現場に辿り着くと、そこには体格の良い黒服の男達がいた。
彼は息を潜め、足音を殺しながら男達に近付き・・・素早く後ろから斬り払った。空中を鮮やかな紅が舞う。

絶命した男達がその場に崩れ落ちるのを視界の端で確認した鱒二は、子供達が居る筈であろう会議室へと駆け出した。



扉を見つけ、開ける手間すら惜しい鱒二は、それを勢いよく蹴破った。基本的に温厚な彼がする行為としては余りにも珍しく、実に乱暴である。
彼は自分の手前にいた男をそのままの勢いで蹴飛ばし、流れるような無駄のない動きで刀を振り下ろす。

・・・男は呆気ない程簡単に心臓の機能を停止させた。






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