山椒魚

□終章
1ページ/2ページ


※主人公がCP名とか出してます。苦手な方はスクロールで対処していただけると助かります。










side 鱒二


5人の子供達を信頼出来る孤児院に預けたその次の日、俺は織田君が死んだという報告を受けた。
龍太の所で泣いておいて正解だったかも。それにしても、歳を取ると涙腺が緩くなってしまっていけないな。

確かその夜だったと思う、太宰君が俺の部屋にやって来たのは。



――――――――――

―――――――

―――――


side 太宰


私はポートマフィアを出る前に、自分の師匠である鱒二さんの部屋を訪れていた。夜遅いにも関わらず、彼はいつも通りに出迎えてくれる。

部屋に入ってから私は早速本題に入った。


「・・・師匠、話があります」


「うん、何?」


「ポートマフィアを辞めます」


「・・・・・・そっかぁ」


私の言葉に、彼は少し間を開けて小さく苦笑しただけだった。もしかしたら予想がついていたのかもしれない。鱒二さんは頭の回転が早い人だから。


「理由は織田君の件、で合ってる?」


「・・・はい」


「判った。・・・君の退路は、こちらである程度確保しておく。他にしてほしいことはあるかな?」


鱒二さんは手早く構成員たちに連絡を回し始めた。
如何やら本当に私を逃がそうとしているらしい。相変わらず甘い人だ。何でこの人がマフィアなのだろう?何度も同じことを思った。


「止めないんですか?」


「うん、止めないよ。君が決めたことだからね」


「何で・・・」


「そうだねぇ、俺が君の師匠だからかな?それでは駄目?」


彼は困ったように微笑んで頸を傾げた。この人の顔を見るのもこれで最後なのか、と考えると少し胸が痛んだ。

それを振り切るように話を変える。


「私に協力して大丈夫なんですか?」


「・・・一概に大丈夫とはいえないけど、死にはしないと思うよ。というか、俺のことは気にしなくていいから早く行きなさい」


「・・・師匠、今まで有り難う御座いました」


「君がお礼なんて珍しいね、明日は雨、いや雪かな?」


私の言葉に鱒二さんは心底愉快そうにクスクスと笑った。そうして優しく背中を押すのである。


「君は君らしく頑張りなさい。・・・縁が合ったらまた逢おうね」


私は部屋から出た。
普段からマフィアとは思えないほど優しかった彼。修行中も飴と鞭を上手く遣い、戦い方も作戦の立て方も上手な立ち振る舞いも(すべ)て叩き込んでくれた。感謝してもしきれないような人。

そんな彼への想いを馳せながら、その場を駆け出した。



◇ ◆ ◇


side 鱒二


太宰君がポートマフィアを抜けるのに手助けをして何事もなく無事・・・・・・な訳がなかった。まぁ、当たり前である。太宰君共々これは裏切り行為なのだから。


「井伏鱒二、何か言い訳はあるか?」


「・・・別にないよ」


背中には壁、目の前には林太郎、横には彼の腕。所謂壁ドンという状態だ。
一体どこの少女漫画?展開は全然少女漫画じゃないけど。というか探偵社の社長さんにやってくれてもいいんだよ?君たちに因縁があるのは知ってるんだからね!鷗福嫌いじゃないし、寧ろ見たい・・・・・・。

必死に無表情を保ちながらも、頭の端でそんなことを考える。そうでもしないと平静を保てないんだ、察してくれ。


「・・・そう」


俺の反応がない所為か、林太郎は無表情のまま俺を一度解放した。彼のその表情を見るのは先代首領の頃以来で久しぶりだったので、少し躰が強張ったのが自分でも判る。

林太郎は俺を静かに見つめてから、話を始めた。


「幹部会を開いた。・・・皆、一様に裏切り者は殺せと云っている」


「そうだろうね、俺も同じ立場ならそういうだろう。それで、君は俺を如何したいの?」


真っ直ぐそう問えば、彼は少し間を空けてからまた口を開く。


「鱒二は殺さない。・・・殺すには君の能力は惜しすぎるからね」


「・・・本当にそう思ってる?」


「・・・何が云いたい」


「だって、それは林太郎の建前でしょう?」


そう云って少し頸を傾げれば、彼は一度押し黙った。

全く、彼は相変わらず俺に対して甘すぎる。幹部達の云う通りに(裏切り者)は殺してしまえばいいのに。
・・・まぁ、そうなったら全力で逃げるけれど。
そんなことを考えつつ、再び口を開く。


「じゃあ如何するの?」


「部屋に閉じ込めさせてもらうよ。・・・期限は設けない」


「・・・判った。君がそう云うなら俺は受け入れるよ」


龍太に暫く連絡出来ないとは云ったし、種田さんには既に太宰君のことを連絡しているし、特にこれといった問題はない。
あるとすれば織田君のお墓参りに行くのが遅れそうなことかな?

俺はある一室に閉じ込められた。ご丁寧にも足には銀色の枷と鎖が付いている。
ぼんやりとした思考の中、林太郎の用意周到さに思わず笑ってしまった。


「あぁ、寒いほど独りぼっちだ」


俺は小さく呟いた。





end


→後書き&補足
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ