山椒魚の日常
□探偵社設立秘話・序
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※主に乱歩、社長、飯田しか出てきません。
no side
太宰と国木田が外回り、乱歩が遠くまで謎解きの仕事へ、その付き添いとして宮沢も出て、与謝野は医務室に籠り、社長である福沢は社長室に居た。
それは、そんなある日の午後の話。
「ところで、武装探偵社って如何して出来たんですか?」
それは純粋な敦の疑問だった。如何してそんな話になったのか判らないが、谷崎と話している最中にふと疑問に思ったらしい。
しかし、この質問に答えられる人間は今此処にはいなかった。
敦が探偵社に入る前に同じような疑問を持っていた谷崎は固まり、敦と一緒に居た鏡花は敦と同じように頸を傾げている。
その時、偶然飯田が通りかかった。
「お?未成年組が揃ってんじゃん!何の話してんだ?」
「あ、龍太さんお疲れ様です!」
「おう、お疲れ。で、何の話?」
飯田が固まっている谷崎にそう聞くと、谷崎が事のあらましを話す。
「実は・・・―――――」
「ほう成程、探偵社が出来た理由か」
「そう云えば飯田さんッて古株でしたよね?」
「・・・まぁそうなる」
「じゃあ若しかして知ってたりして・・・?」
「知ってるな」
キッパリと返された言葉に敦が瞳を輝かせ、谷崎が目を瞬かせる。
「是非、教えてはもらえませんか!?」
「俺は別に良いけど・・・、社長良いのか?」
飯田が振り返ってそう訊ねる。そこには社長室から出て来た福沢が苦々しい顔で立っていた。
気配を全く感じなかったせいか、敦や谷崎だけではなく、鏡花も驚いた表情を浮かべている。
「・・・・・・構わぬ」
「良いってさ。あ、ナオミお茶淹れてくれ」
「はい」
谷崎の美しい妹、ナオミが澄んだ声で返事をする。数分後、彼女はきっちり人数分のお茶を持って来た。
ちなみに、今この部屋にいるのは敦、谷崎、鏡花、ナオミ、飯田、それに福沢の六人だ。
「却説、早速話したい所なんだが・・・」
「? 何ですか?」
「・・・これ一人増えても大丈夫か?」
飯田のその問いに全員が頸を傾げた。
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「それで、何で俺を呼ぶ事になるんだろうね?」
「えぇ?何となく」
「・・・帰る」
飯田が呼んだのは矢張りというか鱒二だった。毎度の事、何かあれば連絡を入れられる彼は、その言葉に僅かに顔を引き攣らせて立ち上がる。
「いや待て待て待て!」
「何?」
「これはお前にも聞いてもらわないと困るんだよ!・・・社長にもだけど」
「・・・・・・はぁ、だったら早く終わらせてね。あんまり長いこと居たら流石に怒られちゃうし」
飯田の様子から何かを察した鱒二は、備え付けのソファに腰を下ろした。その両脇を敦と鏡花が固め、更にその横に谷崎とナオミが座っている。
向かいには飯田と福沢が並んで座っていた。
「それじゃあ何から話すかなぁ?」
「・・・飯田、余計な事は」
「言わねぇよ。ちゃんと判ってるって」
そう言って薄く笑った彼は、何かを思い出すように静かに目を瞑った。
* * *
話の内容を端折らず行くと、まず飯田龍太と江戸川乱歩が出逢った所から始まる。
あの頃の飯田はいろんな所を転々としていた。そんな時、公園で蹲っている学生帽を被った少年を見つけた。・・・そう、その少年が今の乱歩である。
飯田は何だか面白そうな予感がして少年に声を掛けた。
「おーい、坊主。そんな所で何してんだ?」
「別に何もしてないよ。ただ」
少年が言い終わる前にぐぅー、と鈍く腹の虫が鳴く。飯田は思わず笑った。
「ぷっ、あっははははっ。お前腹減ってんの?」
「あぁー!もうそうだよ!!ねぇお兄さん、何か持ってないの!?」
「生憎、食べれられるモンはねぇよ」
「あっそう・・・」
「けどオレも昼飯まだなんだよなぁ。・・・一緒に来るか?今なら奢ってやっても」
「行く!!!」
勢いよく返された返事に、飯田はキョトンと目を丸くして笑顔を浮かべた。
飯田に云われるがまま彼の後を付いて来ている少年は、何処か気分良さそうに鼻歌を歌っている。
そんなに奢られるのが嬉しいんだろうか?などと考えていると、気が付けばここ最近で飯田が贔屓にしている定食屋の前だった。
「着いたぞ」
「えぇー!僕甘いものが食べたかったんだけどー?」
「ん?じゃあ止めとくか?・・・此処の和菓子凄い美味いって有名なんだけど、勿体無いなー」
「えっ!?・・・もうっ、それを先に云ってよね」
和菓子、美味い、の言葉に掌をクルリと返した少年はそそくさと店に入っていく。飯田は年相応な子供っぽさに小さく笑った。
「いらっしゃいませ。・・・おや飯田様、お久しぶりで御座います」
「あぁ久しぶり。悪いんだけど座敷って空いてるか?」
「はい、丁度一つ空いておりますよ」
「そんなら善かった。・・・おい少年、コッチだぞ」
「はーい!!」
彼は店の内装を眺めていた少年を呼んで奥の座敷に入った。
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