山椒魚の日常
□探偵社設立秘話・起
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「へぇー!」
「成程、乱歩さんとはそういう出会い方だったンですね」
飯田の話に敦が楽しそうに声をあげ、谷崎が納得したように頷く。
ナオミはそんな社員達を眺めてから、飯田に向かって口を開いた。
「ところで、社長とはどんな出会い方だったんですの?」
「・・・私も興味ある」
ナオミの疑問に鏡花も静かに頷く。
話し手である彼はニヤリと口元を歪めて言うのだ。
「何だ、気になるのか?」
「・・・焦らす暇があるならさっさと話しなよ」
鱒二は冷めた茶を啜りながら、そのお茶と同じような温度の瞳で目の前の腐れ縁に催促の言葉を放つ。
飯田は「はいはい」と軽く返事をした。
* * *
飯田が江戸川乱歩と言う不思議な少年と出会ってから数日後の事。彼は情報屋としての仕事を終えてから何の当てもなくフラフラと歩いていた。
そんな時、「おじさん、お茶頼んできて!」と明るい声が耳を刺す。
何処かで聞き覚えが・・・、と思いふと目を向けると和設えの喫茶処が目に入り、飯田はその店に足を踏み入れた。
そこには矢張りと言うか、見知った顔がある。
「・・・乱歩?」
「ん?あっ、龍太さんじゃん!」
飯田が声をかけると、少年――江戸川乱歩はパァァと明るい表情を浮かべて振り返る。
「どっかで聞いた声だなとは思ったけど、真逆こんな所で会うなんてな」
「僕も思わなかったよ!本当に偶然だねえ」
「あぁ、でもお前は相変わらずみたいだな」
彼は苦笑を浮かべて乱歩の頭を少し乱暴に撫でた。撫でられている本人は、一瞬唖然としてからその手に反抗したが、飯田はその反抗を易々と受け止めて柔らかく抑え込む。
飯田は乱歩の髪が鳥の巣のようになってしまうまで撫でまわし、自分の気が済んだところで漸く気になっていることを訊ねる事にした。
「で、お前こんな所で何やってんだ?」
「実は先刻事務員見習いの面接を受ける筈だったんだけど、駄目になっちゃってさぁ。今からこのおじさんに仕事紹介してもらうところなんだよ!」
「・・・あ、そう」
乱歩の矢継ぎ早な台詞に呆気に取られながら、彼は一瞬だけ、ん?と頸を捻った。・・・おじさんって誰だ?と。
彼のその反応に気が付いたのか、乱歩の横に立っていた銀髪の男が静かに口を開く。
「・・・多分、俺の事だろう」
それは静かで落ち着いた声で、耳に心地よく響いた。
飯田は男を見つつ雰囲気や小さな動作に、目の前の男が只者ではないと感じていた。
実はこの時、福沢も同じ事を感じていたのだが知っているのは本人だけである。
彼は自分が知らない手練れに警戒心を解くことなく、それと同時に乱歩の奴凄いの捕まえてんじゃん!と心中で笑った。
目の前の男に対する好奇心をひっそりと抑えた飯田は、簡単な自己紹介をすることにした。
「ふーん。・・・俺は飯田龍太、この少年の知り合いだ。アンタは?」
「・・・・・・福沢諭吉だ」
あー、何だ?どっかで聞き覚えがあるような気が・・・・・・。
ふと視界に入る銀色。そうだ、確か政府最強の暗殺剣士だったはずだ。孤剣士『銀狼』とか呼ばれてた。
漸く思い出して彼は何だかすっきりしてから、独り小さく頷く。そんな飯田に気付いているのかいないのか、溌溂と声をかけたのは乱歩である。
「あっ!そうだ。龍太さんも一緒に行こうよ」
「は?何処に?」
「やだな、僕の新しい仕事先に決まってるじゃないか!!」
そう言う彼の瞳は心なしかキラキラと輝いているように見える。飯田はその光景に一瞬だけ言葉が詰まった。
「うっ・・・・・・。はぁ、仕方ないな」
「って事は来てくれるんだね?」
「・・・そこの"福沢サン"の許可が出たらな」
「おじさん、勿論いいよね?」
「・・・構わん」
「そんじゃあ、お言葉に甘えてお供させてもらうわ。よろしくな」
「あぁ、好きにしろ」
こうして飯田は凸凹な二人組に着いて行く事になったのである。
この後乱歩が只管駄々を捏ね福沢の精神状態が大変なことになるのだが、飯田には何の被害もなかったため他人事で終わるのであった。
・・・To be cotinued
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