山椒魚の日常

□邂逅〜虎篇〜
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見ていられなくなった俺は敦の前に座り、両腕を広げて彼を呼ぶ。その声は今まで出した声の中で一番柔らかく、甘く、優しかった覚えがある。


「敦、おいで」


彼は恐る恐る俺に近付き、胸元に顔を埋めた。広げた両腕で確りと抱き締め、頭を優しく撫でる。俺の想いが凡て伝われば善いと思った。


「よしよし、敦は善い子だね」


「僕、いいこ?」


「うん。そうだよ」


「でも、他の人たちは・・・」


「他なんて気にしなくても善いじゃないか。君は君らしく生きなさい」


敦はまた泣き出した。俺は何も言わなかった。
彼が落ち着いてからはひたすら談笑が続いた。俺は外の事を沢山教えたし、文字の読み書きも簡単に教えてみた。
敦はあの草は食べられるとか、雪の中は案外暖かいとか教えてくれたが、俺は少し泣きそうになった。

そうこうしていると、日も傾き辺りは夕暮れ。逢魔が時である。
俺は立ち上がると固まった躰をほぐすように、大きく伸びをした。


「却説、俺はもう戻らないと」


「えっ、あ・・・・・・そっかぁ」


「そんな顔しないでよ、ね?きっとまた逢えるさ」


今にも泣きそうな顔をする敦に、俺はあるものを手渡した。青色の小さなそれは俺がまだ幼い頃に作ったものであった。


「これ、おまもり?」


「そうだよ。俺よりも敦の方が必要みたいだから、貰ってくれると嬉しいなぁ?」


「いいの!?」


「うん」


「ありがとう」


敦は嬉しそうに御守りを握り締めた。きっと大切にしてくれるだろう。御守りが少しでも彼の支えになってくれる事を願った。


「敦、生きる事を諦めてはいけないよ。ここに君を大切に想っている人間がいるって覚えていて」


「うん!!」



◇◆◇


こうして現在に至るわけだけど、敦も随分成長したよね。あの頃はよく泣いてたのになぁ。でも優しい所は相変わらずかな?

と、いうことだよ。これで満足なの?
・・・あぁ、そう。えっ!?七十億は諦めるの?それは懸命だね。
それじゃあ俺はもう寝ようかな。君の所為で書類が沢山廻って来て最近寝不足なんだよね・・・。
おやすみ、後は宜しくねー!









その次の日から、ポートマフィア内で頭を抱える首領が頻繁に目撃されたとか。





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