短編集
□気付いた想い
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2「ついてますよ、カレー。笑」
試合前の食堂で、軽い昼食をとっていた時のこと。
俺は同じテーブルで食べていた広輔に言われて気付く。
『………うわ、最悪。』
広輔に指を差され、見たらアンダーシャツに食べていたカレーを零していた。
近くにあったフキンで拭いても、カレーなんて落ちるわけない。
最悪だ、後から着替えよ。
2「福井さんがよそ見なんて珍しいですね。」
広輔が笑いながら言った。
よそ見…か。
広輔の言う通りだった。
「…ちょ、何か野菜増えてるし。」
9「年頃の女子は野菜取らなきゃだめ。バランスバランス。」
「ただの好き嫌いでしょ。食べてって言えば良いのに。」
近くのテーブルに目をやる。
そこには丸と言い合いをする麻樹の姿。
よそ見の原因はあいつ。
試合中は殺し屋の目みたいに怖い顔なのに、グラウンドから出ると今みたいにコロコロ笑う、ただの女子になる。
つい、目で追ってしまう。
そして、心の中に生まれた麻樹に対する思いが何なのか分かったのも、つい最近。
見てしまったんだ、丸と麻樹が楽しそうに話している所を。
その時の麻樹の恥ずかしさとうれしさが混ざったような顔を見た時、心の中に芽生えたのは丸に対する嫉妬心。
それで気付いた。
俺は麻樹のことが好きなんだと。
あの時の顔を俺に向けて欲しいという願望があるということ。
でも麻樹が好きなのは俺じゃない。
だから、俺にはあの笑顔は向けられることはない。
普通に話すことは出来ても、あの特別な笑顔を俺は見れない。
俺にとっては大事な女(ひと)だけど、あいつからすると俺はただのチームメイト、良いお兄ちゃん…って感じなんだろうな。
「福井さん、助けてください。丸が野菜勝手に入れてきます!」
9「おい、先輩に走るなんてお前最低だな!?」
『………。』
「福井さん、隣良いですか。丸とはもう一緒に食べたくない!」
でも、良いお兄ちゃんだからこそ、こうして麻樹はよく俺の隣に来る。
それはチームの中で俺だけだから、それはそれでまぁ良いかな。と思ったりもする。
本当は麻樹の隣に大事な人としていたい。
でもその思いを伝えるのは、まだ先にしておこう。
『だったら最初から俺のとこ来れば良い。』
「……そうします。」
気持ちを伝えてこの関係が壊れてしまうなら、まだもう少しだけ、このままでいたい。
そして気持ちにケリがついたら、その時に言おう。
ずっと好きでした。
って。