短編集
□声
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「ふーくいさーん。」
『どうした、こんな時間に電話なんて。』
「福井さんの声が聞きたくなって…。」
『……え?』
「嘘です、そんな訳あるわけな『切るぞ。』……すいませんふざけすぎました切らないでください。」
夜急に電話が掛かってきて、何かと思って出たらこれ。
本当にこいつ、俺のこと何だと思ってるんだ。
『……はぁ。』
思わず溜息が溢れる。
今俺は怪我をしてファームで、こいつは一軍。
一軍は昨日から交流戦で札幌に行っているから、恐らく今はホテルにいるんだろう。
明日試合なのに、早く寝ないのかこいつは。
「あ、今溜息吐きましたね?どうせ、暇つぶしに俺のとこ掛けてきたんだろって思ったでしょ??」
『……何で分かるんだよ。』
……まさか、心の声が読まれていた。
「福井さんのことよーく知ってますもん。笑」
『気持ち悪い。』
「ちょ、心の底からの声じゃないですかそれ!!?」
電話越しに聞こえる麻樹の声は、いつも通り明るくて聞いていて安心した。
ここ最近、ずっと一軍に上がれていなくて、一軍の時には毎日ずっと見て聞いていた麻樹の顔も声も聞いていなかったわけで、凄く久し振りの気がした。
『ほんとにお前、どんな時でもそのテンションだな。』
別に寂しかった訳ではないけれど、声を聞いたら少し気分が晴れた。
「そんなことないですよ?こう見えて私、結構繊細でナイーブですから。」
……うん、かなり棒読みだけどな。
『絶対にそれは無いわ。お前にはナイーブのナの字も無い。』
「うっわ、相変わらず酷い。ほんと、乙女心が分かってないわー福井優也さん。だから結婚出来ないんですよ。」
このやり取りも久し振りだ。
最後の一言は余分だけど。
くそむかつく。
面倒だと思いながらも、心の隅で安堵している自分がいた。
一緒にいる時は当たり前のように繰り広げられていた、この他愛のない言い合い。
……嫌じゃない。
『……ははっ。』
久し振り過ぎて、思わず笑いがこみ上げた。
ほんと下らない毎回言い合いしてたんだなって。
「何だ、元気じゃないですか福井さん。」
『??』
すると麻樹から発せられた意外な言葉。
その言葉はいつもみたいにふざけた声じゃなくて、いたって真剣な声。
「今日、佑樹君から何か福井さんが落ち込んでるって聞いて。」
……斎藤のやつ、馬鹿野郎。
余計なこと言いやがって。。。
「……早く戻って来てください。福井さんのバックで守りたいんです。」
『おぉ。』
「福井さんがいないとつまんないです。」
『ん、早くそっち行くから待ってろよ。』
「目指すは2人でお立ち台です。」
『………それは考える。』
「えっ!!!?」
でも、こうして麻樹の声が聞けただけ、許してやろうかな。
少しでも怪我した事を忘れさせてくれた。
きっと電話越しに話す麻樹はいつもの笑顔なんだろう。
たった声だけで、こんなにも自分の気持ちが変わるなんて思ってもみなかった。
2人でお立ち台…か。
悪くないかもしれない。
『……ありがとな。』
俺は麻樹に支えられているんだろうな。
麻樹の存在が、俺の中ではとてつもなく大きいという事。
だから早く、怪我を治して一軍に、麻樹のところに戻る。
そしていつもみたいに、他愛のない言い合いをして…。
「福井さんがお礼なんて、らしくないなぁ。笑」
『ほんっと、お前って一言多い。笑』
笑い合うんだ。
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ちょっぴりギャグちっくになってしまいました。
福井さんはツッコミ役です。
馬鹿笑いも好きですが、控えめに笑う福井さんも大好きです。
ヒロインには上手く自分の思いを伝えられない、不器用な福井さんでした!
★おまけ★
「佑樹君に『私に会えないから落ち込んでるんですかね?』って言ったら間に受けちゃって、真剣な顔して「え、2人ってそうゆう!!?」って言われたんで、真剣な顔して『実は……』って、冗談重ねでかましときました\(^o^)/」
『お前馬鹿じゃねぇの、それ絶対信じてる!訂正しろ、今すぐ斎藤のとこ行って訂正しろ!』
「面倒です、説明するの大変そうですもん。」
『馬鹿野郎……うわ、斎藤から電話来た。』
「あ、じゃあ私はこれにて退散します!おやすみなさーい!」
『ちょ、待て……!!(一軍戻ったら覚えてろよあいつ)』
その後、斎藤佑樹からの電話に出て誤解を解くのに時間を要した福井さんでしたとさ。