短編集

□確信
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『………ん。』


あれ、頭に何か冷たいのが乗ってる。

……冷えピタ?

自分でつけたっけ??

あれからどれだけ時間が経っただろうか。

私はふと目が覚めて、意識が朦朧とする中でゆっくりと体を起こした。

額に違和感を感じ、手を当ててみるとそこには冷えピタが。

寝る前に冷蔵庫を探して、無かったからあるはずないんだけどなぁ。

不思議に思っていると、ふと机の上に置いてあるペットボトルと薬にも気付いた。

それよりも、リビングの明かりがついていることに気づき、消し忘れたかと思い、重い体を何とか動かしてリビングの方へ向かった。

するとそこには、目を疑う光景が。


11「お、起きたか。酷い顔だな。」


『……え、』



リビングに福井さんがいた。

しかも何か普通にソファーでニュース見ながらくつろいでるし。

え、ここって私の部屋だよね?

福井さんの家じゃないよね??

頭がちゃんと動いていないため、今のこの状況が全く分からない。

何で福井さんいるの??

てか、不法侵入じゃん?


11「何だその顔。熱で頭もとうとうイカれたか。」


まるで自分の家にいるかのようなこのデカイ態度。

体調不良の人間に対する態度じゃない、この人。

腹立つ。


『…ここって、私の家ですよね?』


11「おぉ。」


いやいや、おぉ。じゃねーだろ。


『何でいるんですか?』


11「お前、人が折角心配して来てやったのにその態度はなぁ…。」


『……え?』


すると福井さんの口から、思いもよらない言葉が。


11「お前が死ぬ程しんどいって言うから、わざわざ薬とか買ってきてやったのに。」


11「お前自分が言ったこと覚えてねぇな?」


『……。』


何か言ったっけ?

そんなことひとつも覚えてない、身に覚えないよ。


11「……ほんとに覚えてねぇなこれ。」


『…すいません。何かやばいこと言いました?』


11「…。」


不機嫌な福井さんの額の皺が、また一本増えたような気がした。

これはまずいことをした。

こちらに近づいてくる福井さん。

いつものように叩かれると思って身構えると、頭に鉄拳は飛んでこなかった。


ぽんっ


思わずびっくりして、福井さんの顔をまじまじと見上げててしまった。

私の頭の上に置かれた、福井さんの大きな手。

いつもはまさに鉄拳で怖いものなのに、今日は何故だか怖く無い。

優しくて暖かい手。


11「風邪引いてるやつを叩くわけねぇだろ、馬鹿。さっさと寝て、さっさと治せ。」


顔は不機嫌そうだけど、どこか優しい福井さん。

ほんと、顔とやってる事が正反対だ。


11「横に薬あっただろ?あれ飲んで横になっとけ。」


『あ、やっぱり福井さんが買ってきてくれたんですね…。ありがとうございます。』


寝室の方を指差す福井さん。

何かもう申し訳なさでいっぱいで、おとなしくベッドに入ることに。

ペットボトルの水は冷たくて、自分が熱を帯びているせいで持つだけでも気持ちよかった。


『ゴホッ、ゴホッ。』


11「ほら、熱計れ。」


薬をベッドに入って寝ようとすると、福井さんか体温計を持って来てくれた。

…こんな優しい福井さん、初めて見た。


『……すんません。』


11「お前さぁ、ほんと無理しすぎ。』


新しい冷えピタも持ってきてくれて、しれっとして変えてくれた。

近くで見る福井さんの顔。

頭がぼーっとしてるからはっきりとは分からないけれど、何だかすごくカップルみたいなことしてるなーって思ったり。


『……すんません。』


11「さっきからその謝るの止めろって。なっちまったのは仕方ないことだし。」


『……すんま、…はい。』


隣で感じる福井さんの存在。


ピピピピッ


11「39度か。」


『…あがってる。』


11「こりゃあ、明日も一日ダメだな。」


いつも家は1人だから、誰かいるってことは結構気になるタイプだけど、何故か今日はそれが気にならない。

福井さんがいてくれる事が、寧ろ安心感に繋がっている。


11「何か食べたいもんあるか?」


『んーいらない。』


11「何も食べないよりかはマシだ、何か買ってくるから待ってろ。」


そう言うと、福井さんは立ち上がって部屋を出ていった。


『………。』

私、電話した時に福井さんのこと呼んだのかな?

考えようとしても頭が動かないため、考えるだけ無駄。

大人しく待つことにした。

福井さんがいなくなった部屋は少し寂しい。

いつも通り、自分1人しかいないわけで、物音ひとつしない。

でもそれは、眠るには丁度良いわけで…。

段々とまた、睡魔が私を襲う。

瞼が重くなり、あっという間に眠りについてしまった。




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