コミュ障彼女と警戒彼氏

□一人ぼっちと物語の終点
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「あ、明美……?」

「天空!?何でここに居るのよ?」

「え、あ、あの、何かごめん。
でも……私ここにいちゃダメだった?」

「……ううん、ダメじゃないわ。私ったらごめんなさいね。
今日、ちょっとこの後大事な用事があって……少し焦ってたのよ。」

「あ、うん。大丈夫。気にしないで?」

明美は一瞬泣きそうな顔をして私に謝った。

何時も明美は怒ったりしないし、増してやあんな切羽詰まった様な話し方もしない。

その明美をあそこまでにする大事な用事、って言うのがなんだか気になったが、その後の彼女の言葉があまりにも衝撃的過ぎて、しばらくは忘れていた。

「これが、人生最後のお酒になるかもしれないから、乾杯してくれる?」





その言葉の意味は、人に聞くまでも無く明らかだった。





「明美、何を考えてるの?そんな、死ぬだなんて危険なことに首突っ込んでるの?ねぇ、教えてよ。」

「いい?良く聞いて欲しいの。
今から、貴方に黙ってた事も、貴方のご両親のことも全部話すわ。

本当は、出かける直前にメールするつもりだったんだけど。」

改まって話す明美からは、並ならぬ覚悟が伝わってきて、もう止められないと言う事を私に悟らせるには十分だった。



昔、明美と一緒の小学校に通っていた次期があった。

ちょうど文化祭の様な物の実行委員を決めなければならなかったが、そんな面倒くさい物を自ら進んでやる人は居なくて、あと少しで下校時刻を過ぎてしまう、というときだった。


クラスの中で、除け者だった私に押し付けよう、という趣旨の意見をクラスのリーダー格の一人の生徒が口にした。

帰りたかったクラスの皆はあっと言う間にその子の意見に賛成し、このままやらされるのかな、だったらどうしよう、と嫌だと口にすることも無く一人で考え込んでしまっていた。



そんな時、明美はたった一人で声を挙げた。


クラスで浮いていて嫌われ者だった私を庇ってくれた。


お陰で私は委員にならずに済んだが、その代わりに明美がなった。




『私、こういうの好きだから。』

咄嗟に申し訳なくなった明美に、やっぱり私が、と言おうとしたときそう、口にしたんだ。

人付き合いが苦手でろくに喋ったことの無かった私にもこれが彼女の優しさから出た言葉だという事が良く分かった。


それを期に、明美は私の中で「知り合い」から「唯一無二の恩人であり親友」に変化した。





そんなこともあり、明美の事は信じていたし、その覚悟は簡単にへし折れるモノでもないと知っていたから、もう止める様な事はしないようにしよう、とその時決めた。





「まず、貴方のご両親から話すわね。
貴方の両親は、これは今のお父さんから聞いていると思うけどFBIの捜査官だったわ。」


その後の話を乱雑にまとめると、こうだ。


両親は、今私自身が所属している班の初期メンバー。

パパやジェイムズと同期で、組織の事を追っていた。



その最中、組織に潜入して情報を集める必要があり、班の中でも一二を争う位頭が切れた父と、科学的知識があった母が抜擢され、組織に潜入する事になった。

父はコードネームを貰い、組織の幹部まで昇り、母は研究者として、一見優秀なメンバーだった。


母と同じく研究者だった明美の両親は偶然私の両親がスパイだという事に気が付いてしまい、親しかった母を問い詰めた。

その際に、もし自分たちがスパイだという事が組織に露見したら、私をよろしくという事も話していたらしい。


ただそれも虚しく、明美の両親は殺され、姉妹は別々に育てられた。


特筆した能力があった訳ではない明美は普通の女の子として。
研究者の才能があった志保は小さい頃から研究室に詰められていた。


それからしばらくし、私の両親がスパイだという事が発覚し、惨殺された後、家は燃やされた。
僅かな情けのお陰で幼かった私の命は助けられ、同僚だったパパの元へ、私の親戚に変装した組織の人間によって届けられ、今に至っていた、という内容だった。




「……衝撃的、すぎたわよね。いきなりこんな事言われても、信じられないと思うわ。
でもこれだけは信じて欲しいの。

貴方のご両親は、天空、貴方の事を心から大切に思ってた。
それから、私も。

貴方の事を愛していたわ。」



その言葉を聞いた瞬間、本当にそれが明美の口から発せられる最後の言葉の様な気がして、霧消に涙が溢れた。



「なーに泣いてんのよ。最後ぐらい笑顔見せなさい?」


滲む視界の隙間から、彼女の悲しげな笑みが見えて、余計にまた涙が零れる。

「じゃあ、私はそろそろ行くわね?
私がもし帰ってこなくても元気でやるのよ?

それと、志保の事、よろしくね。
あの子、人見知りだし私がいないと自殺とかし兼ねないから。」



そう言って去っていく彼女は、一人ぼっちだった。




心も、なにもかも。

自分に持てる物全て捨てて、何かを必死で守ろうとしている彼女を一人ばっちとは言わないのかもしれない。

だけど、彼女が私には一人ぼっちに見えた。



「待って。最後に、大くんの事、教えてよ。」
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