コミュ障彼女と警戒彼氏
□一人ぼっちと物語の終点
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「―……まぶしいっ」
気が付いたら全部が白い部屋に居た。
僅かに匂う薬品の香り。
「起きたのね、天空。」
「ジョディさん?何でここに、」
病室の一室で寝ていた様な私を、哀しそうな瞳で見つめるジョディさんに、何が起きたんだろうという不安の波がさざめく。
「天空、お願いだから、これから私が言う事を聞いても、自分を責めたり、誰かを責めたり―もちろん、犯人は良いのだけれど―特に、シュウの事、責めてあげないでね。」
「ジョディさん?何を言って?」
赤井さんを責めないで?何で?
何故私が赤井さんを責めなきゃいけないのかわからない。
赤井さんに何かされた覚えも無い。
何でジョディさんがそんな事を言ったのか全然理解できなかった。
「いい?
―広田雅美、本名・宮野明美は、死んだわ。」
あ け み が 、 し ん だ ?
そんな訳ない、だって明美は私の後ろに居た筈だもの。
私が盾になっていた筈だもの。
明美が死ぬ筈なんてないのに。
「貴方がウォッカと言う男の手によって意識を失わされた後、ジンの手によって殺されたわ。」
「……そんな訳、ないですよ……だって明美は…」
「ちゃんと受け入れなきゃダメよ。
だってこれは、"真実"だもの。
それと、貴方への面会希望者が。」
面会希望?
そんなの知るか。
私は明美を守れなかった。
明美の未来を作れなかった。
ダメだったんだ、全部。
最後、彼は「手筈通りに」と言っていた。
私が来る事、判ってたんだ、きっと。
そして、最後まで抵抗する事すらバレていた。
私、あの人たちに敵いっこなかったんだ。
無謀だった。
明美はあそこで命を落とす運命だった。
そういう人生のシナリオ。
人生の終点だったんだ。
そして、私はまた、大切な人を失った。
これも、シナリオ。
私は一生、大切な人を失っていくんだ。
そういう、物語なんだ。
入ってきた小さな男の子と高校生くらいの女の子にも気が付かず、私はただ"シナリオ"と言うフレーズだけをリフレインさせていた。
「ねぇ、お姉さん。死んじゃったお姉さんから伝言だよ。」
「しなりお、だったんだ……皆死んでしまう、何時かは。」
「お姉さん?大丈夫?」
「……っ!えっと、坊やは?
何時からここに居たんだっけ……?」
眼鏡の少年と、何処にでも居そうなロングヘヤーの女の子。
何故か少年の方は何処かで見たことのある様な気がした。
「あの……何処かで会った事、ある?」
アメリカに居て、会った事等ない筈と思いながらも質問を投げかける。
「え?なななないよ!!!
それよりお姉さん、伝言が!」
何か上手くはぐらかされた様な気がしたが、私は特に気にも留めずその続きを促した。
「えっと……死んじゃったお姉さんから。
『私、ダメだったみたい。志保と秀一さんの事お願いね。特に秀一さんは寂しがりやだから』
だって……。
でも、お姉さん、最後は安心した様に死んでったよ。」
「そう……。
なら、良かった。」
そう言って彼に向けた表情は、笑顔だった。
何故か、笑わなきゃいけない気がしたから。
明美が、「貴方には笑顔の方が似合っているわよ」と何時か言っていたのを思い出したからかもしれない。
私は、その時出来る最高の笑顔をしながら、流れる滴を感じた。