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□雨のピアニスト
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「で、何を弾いて欲しいんだ?」鳥子はピアノの椅子の向こうから声をかけた。依頼主の娘、ユキはふてくされたように、「別にピアノなんて聴きたくない」「じゃあ、何でオレに依頼なんかしたんだ」「ママが勝手にしたことよ。別に私の病気が治るわけじゃないし」椅子の上で背を反らし、「はは、そりゃそうだ」「…」ユキは初めて鳥子に興味を覚えたように、ベッドの上から彼女を見た。「でも依頼は依頼だ、希望がないなら適当に弾かせてもらうぜ、ま、聴いてみな」鳥子の指が鍵盤の上に降りると星がこぼれた。星は金平糖のようにポロポロとピアノからこぼれては、お空の星へ還ってゆく。曲の半ばからユキは我慢できなくなり、「なんて曲なの?」と聞いていた。鳥子は指を止めず、楽しくてたまらないというように、星をこぼしながら、「きらきら星変奏曲」と短く答えた。今やユキのベッドの周りは紺碧の夜空に星を貼り付けた雲の上の世界に変わっていて、「うわぁ」とユキは声をあげる。
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