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□ガールミーツボーイ
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真っ白い雪が降った日だった。雑多な近郊もすべて白で厚く覆われ、難を隠すかのようだった。鳥子の白い足跡だけが、その街角の唯一の変化に見えた。一つ二つ角を曲がった辺りで、鳥子の視線が何かを捕らえた。電柱の根元に誰かいる。辺りはしんとして人の気配は他にはない。その人物は電柱に寄りかかるように、しゃがみこみうつむいているせいで、顔もよく見えず、その肩や頭にいつ頃かいたのか雪が積もっていた。鳥子はしばらく無言で手袋の手を口元に当て、はーっと白い息を吐く。(生きてんのかな)さくっさくっと二、三歩近づく。(このまま見過ごすのもな…)むしろ猫の子の方が面倒は少なかったかもしれない、と思いながら、「おーい、生きてっかー」と小声をかける。反応はない。仕方ないので、手が届く距離まで近寄り、肩に手を載せ、軽く揺さぶる。「おーい、もしもし?」雪がとさっと音を立て落ちる。前髪のかかった目がうっすらと開き、何事か呟く。「おー良かった、生きてるわ。自分どこから来たんだ?何か困ってるのか?」「…てない」「え?」「どこから…?覚えてない」「なんちゅー無責任なやつだ。酔っ払いか?」しかしアルコールの匂いはしない。「名前は?」こりゃ面倒なことになったな、と思いながら、もう一度話しかける。「…名前?僕は誰…?」「…」顔の造りと声からして、一見少女のように見えたが、多分少年だろう。「あちゃー、こりゃ虎湖にでも来てもらうか…?」鳥子は一面銀世界の孤島にこの少年と取り残されてしまった遭難者のように、しばらく立ち尽くすしかなかった。
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