★Novels……★
□蒼き月と紅い月
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今、この世界を覆いつくすのは『闇』。
昔聞いた、遠き世界の聖典。神の御子に心より心酔するが故に裏切り者と呼ばれたしまった男。
その男のように私は・・・いや、『俺』は成ろうとしている。
本当であれば生まれてすぐに『聖天』、つまりは殺さなければならなかった私を城に匿い15歳になる今日まで育ててくれた父上。
そして、私のことについて思い悩んでいた父上に「この子を殺すのならば私も死にます」といって父上に決心をつけさせてくれた母上。
その三年後に生まれてこの人前には出れない私にとても懐いてくれた妹姫のキュリウムに、最近では王子としての職務を私の変わりにやっていてくれる弟二王子のセシウム。
私は今、あなた達と決別を心に決め、この王城より姿を消します。
もう二度と、あのように親しく呼び合うことなど無いでしょう。
どうぞ、そのことに心を痛めないでください。
確かに、王城の置く深くで人には見られないようにとはいっても、普通の人たちにはできないような豪華で何不自由ない暮らしをしてました。けれどもそこには、『新しいもの』や『刺激』など存在せず、ただ暖かく居心地のいいだけの場所なだけなのです。
はっきり言えば、私にはあの場所に、いえ、あの場所でしか存在は認められては居なかったのです。
第一身の皇族に、信用の置ける乳母、何も知らない家庭教師たちと剣術の師範。
私、を目にしていても私の正体を知っているのなどはごく一部。
まるで、いえ。本当に世間では私など存在していないのです。
まあ、それもある意味好都合ではありました。乳母の目を盗み、まだ背も低い私は侍女に化け、王城の中を歩き情報を得たり、旅仕度をする事もできたのですから。
町に出て、女の子として町で給仕紛いのことをやり旅の資金を稼ぎました。私の勝手で出て行くのにこれ以上の迷惑などかけられはしないので・・・。
幸い髪も長く、慎重も160センチと小柄という便利な体だったので17・8歳に見られ飲み屋でも働かせてもらいました。
結構な額を稼がいで、なおかつもともとなぜだか勉強の中に会話術などの社交的なことが入っていたので、うまく情報を引き出したり庶民の知恵や、振る舞いなどを学ぶことも出来てとても楽しかったです。
きっと、こんな気持ちは父上・・・・・いえ、もうここからは陛下と呼ばせていただきます。
陛下たちにはわからない気持ちなのでしょう。
どうか、恩知らずの私、など忘れて、幸せに生きて行って下さい。
私は今日よりクロム・ベルセリウス・ウェルティ・クラインの名を捨てさせていただきます。
どうぞ、心安らかに幾久しく健やかにお過ごしください。
俺は今日から裏切り者としての道を歩もう。
暖かく擁護してくれた人たちの心を切って世界に飛び出す。
あぁ、裏切り者よ。今はどれだけお前の気持ちがわかるだろうか・・・・。
光と影があるように、神が居れば魔も必要。その事に気がついたお前は自らそれに身を投じ、染まった・・・。
そして、己への戒めのように今なおその筵に腰掛けている。
なんと、美しき神への思いなのだろうか・・・・。
さあ、行こう。
まるで俺の門出を祝うような美しき『青き月』の満月。
大きく、冷たくこの王城を見下ろして、俺を冷笑している。
振り返ることは、もうない。
しない。
前だけ向き生きていくから。
生きて行きたいから。