★Novels……★

□A dream and reality and an illus
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 荒れ果てた、暴力と権力と情報の町。
メトロに程近く、ダウンタウンからそうも離れていない。薄汚れたマンションの階段。
 天使が降り立ったのかと思った。
青い空に映える。
白いワンピース。
藤色の髪。
細い体。
赤いリボン。
それらをはためかせ、俺の前に降り立ったのかと思った。
「馬鹿者!そこを退けっ!避けぬか!」
 聞こえてきた声は愛らしいものであったが、辛辣な口調。そのギャップに俺は動けないでいた。
どぐしゃ
なんともいえない音を立てながら俺たちがぶつかったのはいうまでもない。
「っこの虚けが!退けと言うのに退かぬから怪我をしてしまうところだったろうが!」
さらに続く罵詈荘厳。
さすがにきた。
「っていうか、普通は階段に出たらいきなり人が振って来るなんて想定してないんだよ!」
まくし立てるように言い返す。てか、言い返すだろう普通。しかし、その少女は俺の言ったことなんて完全無視している様子で俺の上から退く。そして、俺に手を差し出す。
「・・・・・?」
何がなにやらわからない。ぽかんと彼女を見上げている。そうしていると少女が眉をしかめる。
「なんだ、汝。妾が手を貸すのは不服か?」
さっきの罵詈荘厳のあとに、言った相手に手を貸すっていうのはどうかと思うが。まあ、素直に借りておくことにする。
「あ、じゃあ・・・」
そういって手を握る。
見たところ14・5歳といったところか。その手は異様に小さく感じられた。
「うむ。」
そういって少し微笑む。それを見るとやはりきれいだと思った。
「見たところ怪我もなさそうだな。どこか痛いところはあるか?」
心配そうに俺を見上げる。どうやらさっきの罵詈荘厳は少女自身に向けていたものだったらしい。
「アル?どうかしたのか?こちらから何やら騒がしい音が聞こえたが。」
老人の声が聞こえた。そこに姿をあらわしたのはアヴドゥル・アルハザードだった!
「アヴドゥル・アルハザード!」
超有名小説家、いや彼は小説家であると同時に科学者であり医者であり政治家であり芸術家でありあらゆる学問に精通した学者でもあるのだ。ある意味、覇道雷蔵よりも有名だ。
「おや、わしの事を知っているのかね?アル、彼は・・・?」
そう少女に問い掛ける。しかし、彼女の口からはもっと信じがたい言葉が飛び出る。
「あ、父上。少しぶつかってしまいまして。おそらくはここの住人かと。」
「ああ、そうなんです。今日ここに越してき・・・ってぇえええええっちっ父上ぇぇえ!?
かなりの勢いで驚いた。
てか、心臓が口から飛び出るかと思った。
「「そうだが」」
そしてあっさり二人は肯定する。
一瞬意識が飛びかけた。
「うむ。頭を打ってるかも知れんな。青年、少し付き合え。アル」
「はい、父上」
俺のその様子をどう勘違いしたのかは知らないが、俺は少女に手を引かれていった。
というか、意識が飛んでいた。
「時にお主、名は?」
 少女は俺の手を引き、見上げながらいう。唐突な質問に素直に答えたのは衝撃が激しすぎたからだろう。
「・・・あぁ、大十字九朗・・・」
少女は答えを聞いて少し目を見開く。何かに驚いているようだったがそのときの俺にはそんなことにかまっていられる余裕などあるはずもない。そしてすぐに笑顔になる。
その笑顔にどきりとしていた。そんな余裕などないはずなのに、胸は高鳴っていた。どこか冷静な俺が(中学○日記かいっ!)と突っ込んでいた気もするが、全面的に無視した。
「そうか、妾はアルメリア・アルハザードだ。アルでよい。お主とは長い付き合いになりそうだな。」
そういや、アルハザード氏のインタビューで娘がいるって書いてあったよなぁ、などと思っていると・・・。
俺の部屋を通り過ぎていく。
ふと頭によぎる、このマンションの構造。各階三部屋。奥の一室は3LDK。その他は、1LDK。階段に一番近い部屋から、一号室・二号室・三号室と続く。俺の部屋は二号室。その奥は三号室しかない。
そして、その隣の部屋に入っていくアルハザード氏。
「・・・って、ええ!おとなりさんっ!?」
「うむ。そのようだ。」
その瞬間に、少女の言葉は現実感を帯びていた。
(まるで恋物語だね!)
頭の中で、もう一人の俺が叫ぶ。そのときばかりはその言葉を肯定するしかなかった。
「これからよろしくな、九朗。」
午後の太陽に照らせれた少女の笑顔は俺の瞳に焼きつく。赤いリボンと少女の笑顔が面白そうにゆれていた。
 
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