★Novels……★

□I yearn to you
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 途轍もなく、残酷な言葉の連なりを君が望んでいるのか・・・?
そんなことは無い。
そんなことは無いとわかっている。けれども僕は伝えなくてはいけない。
そんな事のために、君を追って教団に入ったわけではないのに。
君を守ること。
唯それだけのために、君を追ってきたというのに。
 残酷な真実。
残酷な世界。
残忍な大人。
そんな物のために僕らは引き裂かれたというのに、僕はもう其の世界の人間だ。
其の世界に染まってしまっている。
ごめんよリナリー。
こんな兄さんで。
こんなことしか出来ない兄さんで。
でも、今の僕に出来る、君の為に出来ることは少ししかないんだ。
其のほんの一握りの事をさせてくれ。

『咎落ちになったら助からない』

 君に話す残酷な真実。
それは強力な力できっと君の心をえぐる。
それでも言葉をつつける。
君からの非難の言葉が無いのをいいことに。

『命が尽きるまで破壊行為をし続けるか、外部から・・・例えば、悪魔から殺されるかするまでは止められない。咎落ちになった人間を生きて助け出すことは不可能だ』

えぐる。
えぐる。
其の行為によって僕の心もえぐられている。
神経もえぐられていく。
何故・・・。
何故君とアレン君が咎落ちに出会ってしまったのだろう。
せめて、君がいなかったら。
他の人・・・例えば神田君だったりとかすればよかったのに。
君は優しすぎる。
其の優しさは分け隔てなく、周りの人に与えられる。
だから、昔ちょっと会っただけの人、すれ違っただけの人、たまたま巻き込まれただけの人にさえも心を砕く。
 砕いて、砕いて砕き続けてなくなってしまうのではないかと思う。
しかし、君の心はそんなことではなくならないほどに大きく、豊かに皆を包み込む。
だから今回も。

『うそよ・・・っ』

とっさの否定の声。

『うそじゃない。落ち着いてよく聞くんだ、リナリー』

其の否定さえ打ち砕かなくてはならない。
酷い兄だ。
非道な男だと君に罵られてもいい。
君が僕に愛情を感じなくても、僕はずっと愛し続けるからそんなことは関係ない。
そう思っていても、きしむ心。
後ろの会話さえミミに入らない。
握る拳。
それでも口は、舌は君に残酷な言葉を伝える為に音を紡ぐ。

『咎落ちが終われば、スーマンのイノセンスは正常化して元に戻る。悪魔に奪われる前にイノセンスを回収するんだ』

 息を呑む音が聞こえてきそうだった。
君の思考が一瞬とまり、急速に意味を理解し、いい方向に否定しようとしているのが手に取るようにわかった。
否定しようが無い僕の言葉を、どうにかしていい方向にしたいという想い。
そんなことは無理なんだよ、リナリー。
僕は暗に、スーマンを『見殺し』にしろって言ってるんだから。君には出来ないことをしろと言っている。
そんなことが君に出来ないことはわかっている。
でもどうしようもない。
仕様が無い。
優しい君が傷付くこともわかっている。それでもそういうしかないんだ。
君の心をえぐることしか今の僕には出来ない。残酷な真実を君に伝えることしか出来ない。

『それは…どういう意味?兄さん』

抑揚の無い声。
初めて・・・、いや。久々に聞く君のそんな声に、舌がしびれて動かない。

『スーマンを見殺しにしろって言うの!!?』

吐き出し、軽蔑するような怒号。
ひるんじゃいけないんだ。僕はリナリー、君のためにこんなところで情に流されてはいけない。
ポーカーフェイスで、吐き出さなくてはいけない。
君にとっての猛毒のような言葉。
君にとっては心打ち砕かれるような言葉。
さぁ。
一息吸ってから吐き出す。

『イノセンスを回収しなさい。これは教団の命令だ。』

君の「兄」でいるよりも、「教団の人間」でいることを選んだ。
君の「上司」でいることを選んだ非常な人間だ。すまない。心の中で謝る。
しかし、表面は「教団の人間」で居続けた。

『もし、スーマンのイノセンスが「ハート」だったらどうなる。そんなこともわからないのか?』

針のように鋭く、原子爆弾のように威力のある一言。
それを僕は今、最愛の「妹」にはき捨てている。
人間のすることじゃない。
兄のすることじゃない。
それは判っている。それでも、僕ははくしかなかった。
毒を。
猛毒を。
爆弾を。
とてつもない破壊力のある者を。
紡ぐしかなかった。
この口で。
この舌で。
言葉を。
 
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