Project(Hiyoshi)

□The Fool
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俺だって、不安にくらいなる。
人の心は、見えないものだから…。




The Fool





目的地へ向かうバスに揺られながら、日吉は手にした腕時計に視線を落とした。
約束の時間まで、まだ幾許かの余裕がある。
少なくとも、相手を待たせる事はないようだ。

『一日違いの誕生日なんて、運命を感じるのぅ』

数日前、恋人に囁かれた一言を思い出し、日吉は知らず笑みを漏らした。
今から向かう先に待っている恋人の、今日は15回目の誕生日である。
そして明日は、日吉の14回目の誕生日。
この奇妙な偶然は、恋人同士となった本人達には、お互いの繋がりを証明する材料となった。

一緒に祝い合えるこの喜びは、本人達にしか分からない。
緩んだ頬を日吉は車窓から外を見る事よって、隠す。
こんなしまりがない自分に、バスを降りるまで誰も気づかない事を、日吉はただ願った。




「日吉くん!」

バスを降り、待ち合わせ場所まで移動しようとした日吉に、聞き覚えのある声がかかった。
振り向いてみると、そこには息を切らし立っている少年がいる。
その顔には見覚えがあった。

「…柳生…さん?」

そこにいたのは、柳生比呂士。
テニスの名門立海大のレギュラーで、日吉の恋人、仁王雅治のパートナーだった。
仁王を通して何度か面識があるので、間違えようが無い。
思わず疑問系になってしまったのは、彼が日吉の知ってる普段の様子とはあまりにも違っていたからだ。
落ち着いた、冷静な振る舞いの人物だとそう日吉は認識していたのだが。
今目の前にいる柳生は、息を切らし、どこか焦燥としていた。

「良かった…。見つけきらなかったらどうしようかと思いましたよ…」
「俺に…何か用なんですか?」
「ええ…落ち着いて聞いて下さいね?」

嫌な予感がした。




「仁王くんが…事故にあって…」




ぐらりと世界が揺れた。
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