Project(Hiyoshi)

□かっこつけ男の憂鬱
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なぁ、カミサマ。
いるかどーか知んねーけど。
もしいるんだったら、これはあんまりじゃねぇか?
俺は…―

俺はただ、アイツの喜ぶ顔が見たかっただけなのに…。




かっこつけ男の憂鬱





部活の生意気な後輩と付き合い始めて、二ヵ月ちょいになる。
きっかけは俺の誕生日に、俺がした告白。
後輩という立場から仕方ないという風に祝福を述べたヤツに、余裕が瞬時に吹き飛んだ俺の口は、勝手に抑えに抑え込んだ気持ちを音に乗せて発していた。
だって。
だってまさかアイツに祝ってもらえるなんて。
俺は(例えそれが長太郎に言われて渋々だとしても)夢にも思ってなかったんだ。
今でも、あの時のアイツの驚愕に見開かれた瞳は鮮明に思い出せる。
あれは可愛いかった…ってそうじゃなくって。
普段必要以上に気を張って、突き刺す様な鋭さを装った瞳が隠れ、切れ長な眼が真ん丸く形を変え、それが歳相応の子供らしさを形作っていた。
告白するまではあんなにうじうじと女みてーに悩んでいたくせに。
いざしてみたら自分でも驚く位冷静になって。
まぁというか、単に言っちまったもんはしょーがねーって開き直っただけなんだが。
暫くぽかんとしていたアイツは。
たっぷり三分近く経った瞬間、そりゃもう茹でタコの様に耳まで真っ赤になった。
中二にもなって、あんな初な反応するのは、絶対反則だと俺は思う。
無表情で冷たい奴と、アイツをよく知りもしねー外野は言うけれど。
それは間違いだ。
アイツは人並みに表情を変えるし、自分の態度が人を傷付けたらそれをこっそりと気にする優しさを持っている。
ただそれを必要以上に隠そうとするから、表面だけで接する輩には伝わらないのだ。
だからアイツと接する機会の多いレギュラー陣だけはそんなアイツの性格をよく分かってるし、それを微笑ましく見ている。
だけど。
だけど恐らくきっと。
こんな、あんなアイツを見たのは、きっと俺だけだ。
というか俺だけであって欲しい。
切実に。
とりあえず長太郎と忍足にだけは見せないでくれ。
この間言ったら、心底呆れた様に溜息をつかれたけど、かなり本気だ。
それぐらいあの時のアイツは魅惑的だったのだ。
沸き上がる欲望を、理性を総動員して抑えたあの時の俺を、自分で褒め讃えたいくらいだ。
その時は「よく分からないから考えさせてくれ」と言われ、有耶無耶のままに俺の告白劇は幕を下ろしたのだが。
正直、それだけでもかなり驚いていた。
だって絶対完膚なきまでに切り捨てられると思っていたからだ。
常識を常にするアイツだから、男が男に、というこの異様な状況を、一時とは言え保留にするとは思ってなかった。
それを恐れたからこそ、告白するのを渋っていたのだから。

「冗談はやめて下さい。気持ち悪い」

それぐらい言われるのを覚悟していたのに。
蔑んだ目で見られると恐怖していたのに。
アイツはただ、顔を赤くして、待って欲しいと。
そう言ったのだ。
俺はそれだけでもうかなり浮かれていて。
跡部や岳人に散々気持ち悪いって言われたけど、ほっておいた。
だって幸せだったんだ、いいじゃねぇか。
散々俺を焦らせたアイツは。
俺が告白して三日経った放課後に、またしても顔を真っ赤にさせながら、小さく「よろしくお願いします」と呟いたのだった。
歓喜のあまりに抱きついて、その赤い頬に唇を寄せたら、思いっきり殴られた。
次の日に薄らと腫れたその部分は隠しようがなくて、跡部に鼻で笑われたけど。
俺の幸せの日々は、そうして始まったのだった。
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