Project(Hiyoshi)

□The Fool
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「に…おう…さん」

信じられない思いで、日吉は目の前の柳生を見た。
そこにいるのは確かに、記憶の中の柳生の姿。
しかし、聞こえてきた声は…。
困惑する日吉の目の前で、柳生はメガネを外した。
現れたのは、いっつも日吉を見つめる、大切な恋人の瞳。

「ど…うして…」
「すまん…」

仁王は弁明もせず、ただ謝罪をする。
現状を把握しきれず、日吉はただ首を振った。
全てが嘘だった。
今まで柳生だと思っていた人物は、仁王で。
迫ってきたのも嘘…。
そして…。

「無事…だったんですね…」
「ヒヨ…?」
「良かった…」

良かった、貴方が無事で。
怪我をした事が、嘘で。

ふわりと日吉が微笑む。
自分が騙された事よりも、
まず恋人が無事だった事が、何より嬉しかったから。

日吉が微笑んだ瞬間、仁王は堪らず日吉を抱きしめた。
自分の身勝手な思いで、泣かせてしまった。
なのに彼は、その事よりただ自分の事を思って…。
仁王は初めて、人を騙した事を後悔した。
そして同時に募る愛しさに、抱きしめる力が強まる。

「仁王さん…苦しい」
「好きじゃ…」
「え…」
「ヒヨの事が好きじゃ…。お前さんを愛しとる」

伝えたかった言葉はこれだけだったのに。
小さな意地が言う事を阻んでいた。
確かめたかった。
自分の想いを伝える前に。
彼がどれほど自分の事を想っていてくれているのか…。

不安だった。
半ば強引に付き合う事になった関係だったから。
本当に、彼の想いがそこにあるのか…。
ただ不安だったのだ。

そして間違いに気付いた。
彼は純粋だから。
決してその場の勢いだけで、誰かと付き合う事を、自分で許す訳がない。
それは自分にも相手にも、失礼な事だと、無意識に知っているから。
そう、彼はちゃんと、自分の事を想っていてくれたのだと、気付いたのだ。

しかも、仁王が想っていたより、はるかに強く…。
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