Project(Hiyoshi)

□Lucky Trap
2ページ/5ページ

「や、今晩は。日吉クン!」
「…また、来たんですか…アンタ」

氷帝の校門前。
目ざとく彼を見つけて、声をかければ、いつもの反応。
うーん、冷たい。

「ご挨拶ですねぇ。寒い中日吉くんを待ってたんですよ?」
「…頼んでませんが」
「んー、確かに頼まれてないけど」

流すように返せば、困惑したように寄る、彼の眉。
でも、最初の頃の様に突き放すように睨んでくる事がなくなったのは、進歩だと思う。

部活を引退してから、ほぼ毎日。
俺はこうして日吉くんを出迎えに、足しげく氷帝へと足を運んでいた。
俺の通う山吹と、日吉くんの通う氷帝は決して近くはないし。
俺の家はちょうど山吹から氷帝に向かう道を、反対に向かう位置にある。
この事実だけでも、俺が日吉くんに抱いてる思いに気がつきそうなものなんだけど。
恋愛ごとに鈍いっていうか、鈍感すぎる日吉くんは、全く俺の思惑に、気付いていないようだ。

「まぁ、いいや。それじゃ、帰りましょう。日吉くん」
「…はい」

最初の頃こそ、
『何で俺がアンタと帰らなきゃいけないんですか?』
って嫌がっていたのに、今じゃなんて素直な返事。
嬉しくなってにっこり笑うと、日吉くんは慌てて目を逸らした。
照れた顔は可愛くて、つい意地悪したいちゃくなるけど、それを我慢して踵を返す。
あんまりからかうと、本気で怒っちゃう人だから。
せっかく一緒の時間を共有できるのに、それではあまりにも勿体ない。
先に歩き出した俺の後ろを、日吉くんがついて歩き出したのが、足音で分かった。

そのまま会話もなく数歩進む。

「あ」
「ん? どうかしましたか?」

後ろから短く聞こえてきた声に、ゆっくりと振り向くと、何かを考え込んでいる様な日吉くん。
しばらく見てると、肩に担いだテニスバックをなにやらごそごそと漁り出した。

「日吉くん?」
「あ…あの、すいません。千石さん」
「はい? どうしました?」
「ちょっと、宿題のプリントを部室に忘れてきたみたいで…」
「忘れ物? 珍しいね」
「すいません。ちょっと慌ててて…」
「謝る必要はないよ。取りに戻るなら、待ってるから」

言って校門前まで引き返す。
日吉くんは俺にもう一度頭を下げて、再び学校の中へと走っていった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ