Project(Hiyoshi)

□方程式
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手塚と日吉が今いる図書館で出会ったのは、
全国大会も終わり、季節は紅葉を誇る秋を迎えた頃だった。
元々読書が好きだった日吉は、束の間の休息を少しでも本を読む事に使おうと、
滅多に来ない町の図書館へと足を運んだ。
いつもならば学校の図書室(室とは名ばかりで、館と言ってもいいくらいの蔵書量を誇るのだが)で事は足りるのだが、生憎日吉が読みたかったシリーズが貸し出し中で、続きが気になるからと、運んだ図書館で出会ったのだ。

今と同じ橙が差す本棚の前で、彼が、目的の本を片手に佇んでいた。
自分の目的とする本が人の手にあるののも驚いたが、それ以上に、それを手にしていた人物に、日吉は思わず凝固してしまった。
日吉の不躾な視線を感じ取ったのか、彼は本から視点を外し、ゆっくりと日吉へと顔を上げた。
視線が交差する。
ごくりと日吉の咽喉がなった。
知らず、緊張していた…。

「何か?」
「あ」
「…君は」

カッと頬が熱くなった。
自分のあまりにも礼儀知らずな行動に、日吉は自分自身を恥じた。
いくら相手の顔に覚えがあったとはいえ、初対面に違いない相手の顔をじっと見つめ続けた上に、名乗ってもいないのだ。

「あ、俺…」
「確か…氷帝の日吉、だったな」
「え?」

驚いた。
まさか相手が自分の顔と名前を知っているとは思わなかった。
彼は分かる。
中学でテニスをしているものだったら、誰だって青学の手塚を知っているだろう。
しかし自分はそうとは言い切れない。
学校単位で言えば、有名な学校ではあるし、自分たちの部長である跡部は、この手塚と名勝負を繰り広げた有名人ではあるのだが…。
そこまで考えに至って、日吉はあぁと納得した。
そう言えば、その勝負の後、日吉は彼の後輩と試合をしたのだ。
それで自分の事を知っていたのだろう。
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