Project(Hiyoshi)

□かっこつけ男の憂鬱
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ピピピと電子音が鳴るのを確認して、小さな棒を含んでた口から出してみる。
そこに表示されていた数字に、たっぷり大きく溜息をついた。
朝より下がってはいる…が、起き上がって外に行くのは許される感じではない。
体温計をベットサイドの棚に置き、重力に逆らわないままベットへと沈んだ。
ちらりと視線をベットヘッドに置いてある時計にやると、デジタルの数字は学校が終わった時間を示していた。
日付も表示されるその時計の、物語る今日という日を確認して、思わず悔しさに涙が出てきそうになった。
まさか。
まさかよりにもよって、今日という日に。
何で学校に行く事もできず、俺はこうしてベッドに縛られているんだろう。
普段なら、部活とアイツに会う以外に興味ない学校を休めると喜んでいるんだろうけど、今日は話が別だ。
何としても学校に行きたかった。
学校に行って、アイツに会いたかった。
だって…だって今日は付き合い始めてから初めてくる、アイツの、誕生日なんだから。
熱に冒されてるせいか緩んだ涙腺から滲む涙は、悔しさというより、情けなさからかもしれない。
記念日などを大切にしようという女みてぇな事を思ってる訳じゃないけど。
だけどやっぱり好きな奴の生まれた日っていうのは特別だと思う。
アイツが今日この日に生を受けていなければ、俺とは出会っていなかった訳で。
そしたら俺のこのアイツを愛しいと思う気持ちは、生まれなかった訳だから。
特別な事をしようとか、言おうとか思っていた訳じゃなかった。
跡部じゃあるまいし、俺の性格から考えたらそんな事できるハズないから。
そんな特別な事じゃなくて、ただ、俺は言いたかっただけなんだ。
「誕生日おめでとう」と、ただそれだけを。
なのに、そんな大事な日に。
俺は、風邪をひいて学校を休む羽目になってしまったのだ。
しかもその理由が、今日の事をシュミレートしてる内に緊張で眠れなくなり、半分知恵熱の様なもの。
という状況だから、本当に情けなさに涙が出る。
まさしく激ダサだ。
今まで俺がダサいと言っていた奴等以上に、今の俺が一番ダサい。
これまでダサいと言ってた奴等に謝らないといけないんじゃないかという程、激ダサだ。
無理して学校に行くと言いはった息子に、いつもなら蹴ってでも学校に行かせる母親がノーサインを出した。
流石に、見過ごせる様な熱じゃなかったみたいだ。
凄い剣幕でベットに押しやられ、寝ておくように厳しく言い捨てられてしまった。
しょうがなく朝いつも途中で出会う長太郎に電話をして、朝練に出れない事を伝えた。
三年である俺はとっくに部活を引退しているのだけど。
高等部にそのまま進学する生徒の多い氷帝では、引退後の部活に三年が出る事を容認してくれている。
特に男子テニス部に関してはその伝統と実績から、進学の為の試験期間ギリギリまで三年が練習に出てくる事は、もう当たり前になっていた。
一応引退はして、形式上は役職の引継ぎなんかは終わっているのだが。
実質本当の引退が行われるのは、年が明けてからになっていた。
図体だけはでかいくせに気弱な後輩は、俺が休むと言った事に、何故か熱を出した俺自身より慌て出して。
熱に冒されてる頭に響くそのでかい声に、黙らせる様に叱咤した自分の声にまた頭を痛ませた。
直ぐに見舞いに来るとか言い出したのを抑えて、跡部に休むと伝えてくれと伝言を頼む。
電話を切った後、どっとくる疲れのままベットに寝転がりたがったが、それを留めて再び携帯を握り締めた。
直接会って言えないのなら、せめてメールで。
そう思わなかった訳じゃない。
だけど、あまりの情けなさにそれもできなくて。
しばらく履歴の一番最初にあるその名前を見つめながら葛藤して。
どうしようもなくなって枕元に携帯を放り投げ、俺自身もベットに寝転がり、そのまま意識を手放したのだった。
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