Project(Hiyoshi)

□かっこつけ男の憂鬱
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本人の意思とは裏腹に。
やはり風邪は確実に身体を蝕んでいたみたいで、朝寝てから、今のこの時まで一回も目覚めずにいたらしい。
まるでジローの様だと思い、ずっと寝てた事によって強張った体をうんと伸ばした。
学校が終わったという事は、これから部活だ。
アイツは…どうしているだろうか。
朝練に来なかった俺の事を、少しは心配してくれてるだろうか。
俺を心配しているアイツを想像して、だけど浮かんでくるのは全くそんな事を気にせずに練習に打ち込むアイツの姿で。
そんな自分の想像に思わずへこんでしまった。
アイツだったらその可能性の方が強いのが、またその気持ちに拍車をかける。
少しだけまた寂しい気持ちになって寝返りを打った瞬間、枕元に放っておいた携帯がメールを着信を告げた。
一人一人着信音を変えるなんてめんどくせぇ事はしていないので、誰からかはディスプレイを見るまで分からない。
のそのそと動きながら携帯を開くと、メールは長太郎からのものだった。
何事かとメールを開いて読んでみる。

From:長太郎
sub :大丈夫ですか?
――――――――
俺、見舞いに行きます。
何か欲しい物とかありますか?

見た瞬間、軽い違和感を感じる。
だけどそれが何なのか分からなかったから、敢えてそれは無視する事にした。
どうやら見舞いに来るつもりらしい。
長太郎の奴、部活サボる気かよ…。
最初は来なくていいと断ろうと思ったんだが、やはりずっと一人で寝ていて退屈だったのもあったので、俺は「適当に冷たいモン」とだけメールを返した。
メールを送信して暫くしても返信は来なかったので、また携帯を放り投げて寝転がった。
俺の家は比較的氷帝の近くにあるから、10分もしない内に来るだろう。
寝転がってぼんやりと天井を見つめた。
こんな風にじっと自分の部屋の天井を見たのは久し振りの様な気がする。
ぼんやりとしていると自然と浮かんでくるのはアイツの顔で。
これはある意味風邪よりやっかいな病気なのかもしれない。
アイツは…どうしているのだろうか。
先程と同じ事を考えてしまう。
アイツに見舞いに来て欲しいと思う反面。
絶対に来て欲しくないと思う気持ちもある。
アイツに会いたいと思う気持ちは確かにあるんだが。
今日の俺は本当に情けないから、そんな俺を見られたくないって気持ちの方が強い。
休んでおいて今更な気もするけど、アイツの前でだけは、やっぱりどうしても格好をつけたいのだ。
まぁアイツが見舞いに来る事なんてないんだけど…。
それはアイツの性格がどうこうじゃなくって、俺が長太郎に朝の電話でそう頼んだからだ。
アイツがもし見舞いに行くとか言い出したら、絶対止める様にと。
こんな俺を見られたくないっていうのも本当だけど、それ以上にこの大切な時期にアイツに迷惑をかけたくなかった。
実質未だ部を率いているのは跡部とはいえ、アイツはその跡部から部活を引き継ぐ身となった。
いわば今は跡部について、部長としての責務を学んでいる所なのだ。
そんな時期に俺を見舞いに来て、もし風邪をうつしてしまったら、あまりにも申し訳ない。
建前上のしかし偽りのない理由をそう述べて、俺は長太郎にアイツを止める様に頼んだのだ。
アイツはもしかしたら怒るかもしれないけど、今日の埋め合わせは明日する事で許してもらおう。
それに…長太郎が見舞いに来ると言い出したっていう事は、アイツは本当に俺の事を気にしてないのかもしれない。
アイツを止める必要がなかったからこそ、俺の見舞いにくると言い出したんだろうし。
あ、ヤベ、ちょっとそれはマジでへこんでしまう。
熱のせいで弱気になっているのか、さっきからマイナス思考ばかり浮かんでくる気がする。
たった一日。
今日という日を祝ってあげる事ができないだけで、アイツに嫌われてしまう事はないとは分かっているのに。
中々自分の気持ちを言わないアイツだから。
こんな時に必要以上に気にしてしまうのだ。
アイツは本当に、俺の事を好きでいてくれるのだろうか…と。
こんな不安も、アイツに会って、あの照れた様な笑顔を見た瞬間に吹き飛んでしまうんだけど…。
今日は…会えないのだ。
あぁ…もうどうしようもない。
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