Project(Hiyoshi)

□かっこつけ男の憂鬱
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「会いてぇな…若…」
「はい、何ですか?」
「は!?」

思わず漏れた呟きに、思いがけず返事が返ってきたのに驚く。
しかも、聞き間違えるハズがないそれは。
今俺が最も会いたくて、最も会いたくない相手のそれじゃなかったか?
動揺のままベットの上で跳ね起き、そのままの勢いで部屋の入り口を見ると、思ったとおりの人物がどこか目を真ん丸くして立っていた。
どうやら俺が突然飛び起きた事に驚いたらしい。
いや、それはいいんだ。
だって俺はそれぐらい驚いたんだから当然だ。
まさか本当に、本物なのか?
訝しむ視線を向けていると、アイツは平静を取り戻したのか、いつもの切れ長の目へとすっと瞳を戻す。
それは確かに自分を偽ろうとする愛しいアイツの可愛らしいくせで。
目の前にいるのは、確かにアイツ。
俺の愛しい恋人、日吉若だったのだ。

「わっ、若!? お前どうしてここにっ!」
「どうしてって…お見舞いに。あ、先程玄関で宍戸さんのお母様にお会いして上げてもらいましたので、不法侵入じゃないのでご心配なく」

いや、問題はそこじゃない。
若のこういう所は天然なのかそうじゃないのか、いつも悩む所だ。

「そうじゃなくって! 俺、長太郎に…」

長太郎の名前を出した瞬間、若の瞳が一層の鋭さを増した気がして思わず黙り込む。
さっきはあんまりにも驚いて気がつかなかったが、もしかして…もしかしなくとも。
この若のまとうオーラは…。

「アンタ…鳳ごときに本気で俺が止められると思ってたんですか? あんまり見縊らないで下さい」
「ごとき…って」

やっぱりかなり不機嫌だ。
若はどうしようもなく怒っている。
これは確実だ。
そんなに長太郎に任せたのが気に入らなかったのだろうか。
いやでもそれは若が長太郎より弱いからとか思った訳ではなくて。
確かに古武術の使い手である若が本気を出せば、長太郎なんかはひとたまりもないだろう。
しかしそれでも体格と、力の差から、長太郎が体を張って押さえ込めば若は敵わないと思うし。
それに何より、若は何だかんだ言って長太郎に甘いから、だから長太郎相手に本気は出さないだろうと思ったのだ。
まさか、若は長太郎を本気で伸してきたのだろうか…。
長太郎…生きてるのか?
俺の心配を察したように、若はどこか呆れた風に答えをくれる。

「ご心配なく。鳩尾に一発食らわすだけに留めておきましたから」
「いや…そ、そうか」
「はい。…これ、お見舞いの品です」

役に立たなかった後輩の、今の状況をちょっと思い浮かべて同情していると、目の前にコンビニの袋が垂らされた。
透けて見える中身は、冷たそうな清涼飲料水や、蜜柑のゼリー。
冷たいもので思い出し、俺はそれを受け取りながら若を見上げた。

「さ、サンキュ。所でさっき長太郎からメールきたんだけどよ…あれ…」

言葉が言い終わらない内に、若は自分の制服のポケットを探ると、手にとったそれをまたしても俺の目の前に差し出してきた。
手に収まるサイズに畳まれたそれは、若が持っている部分から紐が垂れて、その先についた飾りに目を見張った。
凄く見覚えがあるそれは、確か長太郎の携帯についているストラップじゃ…。
もう一度若の手に乗っているそれを見ると、それは確実に若のものじゃない、長太郎の携帯電話だった。
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