Project(Hiyoshi)

□かっこつけ男の憂鬱
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「おま…それ…長太郎の」
「俺の誕生日プレゼントという事で借りました。先程のメールは俺がしたんです」

さっきのメールの違和感はそれか。
どうりで長太郎にしてはかなり大人しい文面だと思ったのだ。
しかしまさか若が人のものを取り上げて、しかもそれを使ってくるなんて。

「若…おま…え、何で」
「だって…アンタ、俺からの電話やメールだったら絶対取らないでしょう!」
「そんな…」

事ねぇとは言えなかった。
それは多分、若の言った通りだったからだ。
俺は多分若からの電話だったら取らなかっただろうし。
若が見舞いに来るとメールしたら、来るなと返しただろう。
だけどまさか。
その事に対して若がこんなに激昂するなんて。
普段冷静な若からは想像もつかない叫び声に、ただ驚いた。

「アンっタはいつだって“長太郎”で! 俺がどんな気持ちでアンタの事を鳳から聞いたと思ってるんですか!!」
「若?」
「アンタの恋人は俺なのに! 何で俺は鳳からアンタが風邪ひいたとか、見舞いに行くなとか言われたりとかしなきゃならないんですか! しかも俺にはメール一つ寄越さないくせに、鳳にはちゃんと返信して!」

堰が壊れたみたいに、若は想いのままを叫んだ。
叫びきった後、言葉につまったのか、悔しそうに下唇を噛む。
そんな若の様子を、言葉を、俺はぼんやりと自分の中に浸透させた。
ヤバイ。
どうしよう。
これは、かなり嬉しい事を言われてるんじゃねぇのか?
怒っている若には悪いけど。
俺は今にもにやけそうになる顔を抑えるのだけで必死だ。
これはどんな直接的な愛の言葉より、赤面もんだ。
若は恐らく気付いてないけど。
若にこう言わせる原因はただ一つ。

「若…長太郎に嫉妬してんのか?」
「なっ!! 違ッ! うわっ!」

俺が言った台詞に、自分が言った事の恥ずかしさに気付いたのか若は途端に顔を朱に染めた。
否定の言葉が全部出ない内に、俺は若の腕を取って思いっきり引き寄せる。
思いがけない力に抵抗する暇もなく、若の体はベットの上に倒れこんできた。
いきなり落ちてきた重さに、ベットのスプリングが大きな悲鳴を上げる。
体の上に落ちてきた衝撃は、ちょっと痛かったけど。
俺はそんなの気にもせずに、若の体を強く抱きしめた。
12月の寒空の下を歩いてきた若の体は冷たくて。
熱がある俺の体には酷く心地よかった。
さらりと顎に触れる若の綺麗な髪から香る匂いを、鼻一杯に吸い込む。
すりっと頬を寄せた所で、若はやっと己の状況に気付いたのか、暴れ始めた。
だけど俺だって放すつもりはないから、ますます腕に力を込めて抱きしめる。
風邪で全然力が出ないから、体中で押さえ込んだ。
若もそんな俺に気付いて、俺が風邪をひいてると思い出したのか、ゆっくりと強張った体から力を抜く。
ふぅとついた熱い若の吐息が胸にかかって、火傷するかと思った。

「若…俺、激嬉しいぜ! お前が嫉妬してくれんなんてよ」
「だから嫉妬なんてしてません! それよりアンタ全然元気じゃないですか!」

俺の腕の中。
胸に顔を突っ伏してる形の若は。
恐らく自分の赤い顔が見られてないと安心してるに違いない。
だけど、さらさらの髪の隙間から見える耳まで真っ赤になっているのだから、バレバレだ。
それは敢えて若には言わないけど。
言ったらまた本気で抵抗されてしまうから。
今の俺じゃ若の本気の抵抗には流石に敵わないからな。
でも言葉で否定していても、若のその赤い耳が全てを肯定しているから。
俺はもうそれだけで満足だった。
確かに若が来てから、若のあの台詞を聞いてから、俺の体は驚く程元気になった様な気がする。
風邪なんてきっと俺達の愛のパワーにどっかに飛んでいったんじゃないだろうか。
なんて、自分で思って馬鹿じゃないかと恥ずかしくなった。
現金な奴だと自分でも思うけど。
来て欲しくなかった若が見舞いに来てくれて。
それだけで、こんなに元気になれる自分が本当に激ダサだ。
しばらく何にも言わずに、若という俺にとって何よりの薬を堪能していると。
腕の中の若が、ポツリと呟いた。
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