ロイエド

□17、涙
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私の執務室に入って来たエドワードは、普段通りに生意気な軽口を叩き、今回の任務の報告書を投げて寄越した。
私はそれを受け取り、いつものように皮肉めいた感想を告げる。

しかし、私は気付く事ができた。エドワードの様子が普段とは違う事に。

「この街で、何があった?」

「……書いてあるだろ」

「書かれていない事を訊いている」

報告書を指で弾き、立ったままのエドワードを見つめる。

しばらく私の視線を受け止めていたエドワードは、やがて俯いてしまった。
分かりやすいその反応が、何かあった事を告げている。
怪我をしていない事は最初に確かめた。ならば、傷を負ったのは心だろう。
今になっても引きずるほどの事があったのだろうな。

「……オレは、泣き言を報告しに来たワケじゃない」

話して楽になれるのなら、私としては全てを告白してもらいたい。

エドワードは常に強くあろうとしている。弱い彼が赦されない現実があるからだ。
正直、それが痛々しくて見ていられない時もある。

今もその時だ。視線を逸らしたままのエドワードが涙を堪えている様に見えた。

「何があったのか、話さなくてもいい……だが、ここでなら泣いても構わないよ」

弾かれたように顔を上げ、エドワードは私の言葉を否定しようとする。
強さを泣かない事と捉えているエドワードは、人前で涙することはない。

だが、私は思うのだ。
そうして体に蓄積された負の感情が、いつか彼自身を飲み込んでしまうのではないかと。

泣いて悲しみを外に出し、辛さを和らげることも時には必要だろう。

「辛ければ泣きたまえ、悲しかったら泣きたまえ、それは恥ずかしいことではない」

諭すように言うと、エドワードの黄金色が大きく揺れた。

私は彼の苦痛を代わってやることが出来ないけれど、泣く場所を与えてやる事は出来る。
私の前では何の気兼ねもなく、感情を表に出してほしい。
それで少しでもエドワードが癒されれば、こんなに嬉しいことはないだろう。
他人が見ることのない彼の顔を独占できるとあれば、私のちっぽけな心も満たされる。

「ダメだよ、大佐……そこまで甘えられない」

「違うな、これは甘えではない。自己を保つための防衛手段と考えたまえ」

私を映している金色が揺らめいて、今にも零れ落ちそうだというのに、エドワードは握り締めた拳を解こうとはしない。

私では役不足なのだろうか?
エドワードの感情の捌け口にさえなれないのか。
自分の存在意義に疑問を唱えてしまうほどに、私の心をエドワードが占めている。

「鋼の……」

私は堪えきれずに立ち上がると、エドワードの体を抱き締めた。

見ている事が辛くて、私は逃げたのだ。
おずおずと私の服を掴むエドワードが、その事に気付かないよう祈る。

「大佐……少しだけ、このままでいてくれる?」

私に縋りついて、エドワードは声を殺して泣き始めた。
私は静かにエドワードの金髪を撫でてやる。

泣いているエドワードを見て、どこかホッとしている自分がいた。

たとえ、それが私のエゴであったとしても……。
エドワードがエドワードであるために、この時間が必要であると信じたい。

頬を伝う悲しみの涙は、とても綺麗だった。
 

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