創作小説〜短編・中編〜

□精神科医の恋情
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白い天井 白い壁 白い床
白いベット 白い拘束衣
ここで白色ではないのは拘束衣のベルトの部分と鉄格子と監視カメラ

女はそんな異常な空間の中 拘束衣を身にまといベットの上に横たわっていた

女は疑問に思っていた
何故私はここにいるのだろうか?
私はここにどれぐらいの時間いるのだろうか?私はいつ此処から放たれるのだろうか?
だが女の頭から答えは出ることはなかった

「…ぁ」
声を一つ出してみた その声は掠れていた
また女は思った
私は今まで寝ていたのだろうか
それとも久々に声を発しただけなのだろうか
だが同様にそれらの答えが出ることはなかった

「やっと起きたのかい?」
何処からともなく声が聞こえてくる
男の声だ
おそらく監視カメラの方から声が出ているのだろうが 
女の視界にそれは映っていずまた
今の女の頭ではそれがどの方向から聞こえてくるのかという判断すら不可能であった
女は非常に混乱していた
何か言いたげに声を出そうとするがそれら全ては空気と化して消えた
声がそれ以上出ないのだ

その様子を見た男は卑しく笑った
「君が何を言いたいのかは分かる 私は君の最高の理解者だからね…どれ今すぐ君の元へ向かおうじゃないか 大人しく待っていてくれ」
プツッっと機械の途切れる音がした
女はそれを聞くとようやくここの部屋の何処かに監視カメラがあったのだ と理解した
一体どこにあるのだろうか?と思ったのだろう
女は必死に体を捻り周りを見渡そうとするが、それで見えてしまえば拘束衣の意味がない
女の努力は泡にへと消えた
途方にくれていると 足音が聞こえてきた
女の見えない方向からだ

女は咄嗟に特に意味を成さない身構えをした
男もそれが滑稽だったのだろう
男の笑い声が直接その部屋へと響いた
キィと扉の開く音がする
そして閉められ鍵がかけられる音もした
男は 今女は自分と二人きりなのだ と主張するかのようにわざとらしくそれらの行為をした
女は意図に気付いてか気付かずか男に対してただただ怯える

「…君は今非常に混乱しているはずだ」
男は怯える女を愉快そうに見つめながら女とは対照的に饒舌に話し始めた
「まぁとりあえず私の自己紹介から始めようか?私の名前は京条佳月って言うんだ、職業は精神科医」
男はそう言い精神科医とは無関係に思える注射を持ち女へと見せびらかす
女はますます怯え 男を不安げに見つめた
その男の表情はまさに恍惚と言えるものであった
男はそんな女を優しく見つめ言葉を続ける
「そして君は私の患者だよ 私だけのね」
「名前は…まぁわざわざ旧性を名乗る必要はないから新姓と共に名前を言おう
君は京条名無しさんだ そうだ君は私のお嫁さんだ」

女の顔が戸惑いの色に染まる
男の言うこと全てが身に覚えのないことなのだろう 
だがしかその女の態度はさも当たり前かであるようにと男は平然としていた
「身に覚えが無いって顔しているね?まあそれもそうだろうよ 良いかい君は酷い病気なんだ
その病気を治める為にとても強い薬を投与したんだ…軽い記憶障害が起こってしまうほど強い薬をね」
男はそう言って微笑み女の頭を撫でた
「大丈夫…直ぐに全てを思い出すさ…何もかもをね…」
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